近代ドイツ思想史を事例に、近代社会理論と近代市民社会の形成に対して自由主義的思考が果たした役割とその功罪両面を知識社会学的に分析し、市民社会理論の再構築を行うことが本研究の目的である。第二年度にあたる本年度は、(1)ドイツ自由主義の系譜の再検討、(2)市民社会理論の再建という2つの課題に取り組んだ。 第一点目については、特に自由主義がヴァイマル期において新自由主義ないし「権威主義的自由主義」へと変容したことの遠因を特定することを主たる目的として分析を行った。その結果、19世紀前半にロベルト・フォン・モールが体系化した市民的自由主義においてすでに社会問題に対する処方箋が社会政策へと大幅に縮減されている点に問題を解く鍵があるという見通しを得た。これは市民社会理論の再建のためには、自由主義を基礎とする近代市民社会の内部に「社会的なもの」を位置づけ直すことが不可欠であることを示唆するものである。 第二点目については、ニクラス・ルーマンの学説研究と上記の自由主義の系譜の再検討という学史・学説研究の成果を踏まえ、市民社会の概念を機能分化という社会構造と関連づけた上で、それと社会政策と関連について理論的検討を行った。これは社会関係資本などの現在の市民社会理論を近代化理論の側から補強する意義をもつ。同時に、この理論に実質を与えるために、近代日本における市民社会と社会政策との関係についての経験的な研究を試験的に行った。具体的には、戦後日本の被保護世帯と工場労働者世帯の実態をいくつかの社会政策との関連から検討した。
|