研究概要 |
本年度は,本研究で提案するTierra型オンボードコンピュータ(OBC)の実用化に向け,(1)進化の効率化と(2)複雑なプログラムの進化に取り組んだ. (1)進化の効率化に対しては,プログラムサイズと突然変異率の関係を理論的に考察し,その関係性を基にプログラムサイズの変化に応じた動的な突然変異率の調節を可能にした.簡単な数値計算プログラムの例題を通して突然変異率が一定の場合と提案した適応的突然変異を比較し,適応的突然変異の有効性を明らかにした. (2)複雑なプログラムの進化に対しては,ループや条件分岐のような分岐構造を含む複雑なプログラムの進化を目指し,プログラム進化に適した分岐構造を実現するため,ジャンプ命令(JMPやJNEなど)を新たに導入するとともにそれらの命令の移動先を示すラベル命令を導入した.また,複雑なプログラムを適切に維持,進化させるための選択法として,エリート個体を優先的に保存するエリート保存戦略をTierra型OBCに適用し,正しいプログラムを維持しやすくするメカニズムを取り入れた.これらの方法を条件分岐が必要となる計算問題の例題に適用し,有効性を検証した.また,これらの知見を基にさらなるTierra型OBCの実用可能性向上に向け,従来では基本的な演算命令のみを用いたプログラムの進化のみを扱ったのに対し,PIC16という小規模なMCUに含まれる33命令を網羅した実際のアセンブリ言語プログラムを扱い,ループ構造や条件分岐を含む複雑なプログラムの進化に取り組んだ.遺伝的プログラミングの主要な例題であるSylnbolic regression問題に適用して有効性を検証した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
低リソースCPU上でのTierra型OBCの実現に向けてプログラム進化の効率化は非常に重要であり,本年度は理論的な考察を基にした効率化を実現することができた.また,実際のMCUで使用するアセンブリ言語プログラムの進化は実用化のために必須であり,Tierra型OBCの実現に向けて大きく進展したと言える。
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今後の研究の推進方策 |
PICアセンズリ言語プログラムの進化を2値問題や分類問題に適用し,結果の一般性について検証するとともに,より多機能な演算を備えたTinyH8(62命令)のアセンブリ言語プログラムの進化を目指す.また,遺伝的プログラミング以外の進化計算分野における非同期評価に関する文献の調査を進め,非同期評価環境において適切にプログラムを選択,削除する手法を探求する.さらに,宇宙線によるエラーに対する耐性の向上に向け,プログラムの評価にエラーが生じる場合でも適切な進化を可能にする進化手法,およびハードウェア構成の検討を進め,最終的にはTierra型OBCを構築したハードウェア上での実証実験を行う予定である.
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