研究概要 |
本研究は, 実験的アプローチと理論的アプローチを組み合わせることで二酸化炭素を用いた超臨界溶体急速膨張(RESS)法による薬物ナノ粒子の創製技術を確立することを目的とするものである. 実験的アプローチとして, RESS法を用いてテオフィリンおよびカフェインのナノ粒子創製をおこなったその際, ノズルの温度を変化させることでカフェインの高温安定形(多形)を創製可能であることを明らかにした。つまり, 本法において操作条件を適切に設定すれば多形を選択的に生成できる可能性が示唆された. 理論的アプローチとして, 空孔理論に量子計算から得られる分子情報を組み合わせた新たな溶解度相関式を構築し, その適応性の検討として18種の医薬品の超臨界二酸化炭素に対する溶解度を相関した. さらにこの相関式をもとに推算式を構築し, 溶解度推算をおこない実験値との比較を行った結果, 対象としたデータの65%を実験値と同じオーダー内で推算できた. また, 15MPa以上の高圧条件およびC, H, Oのみで構成されている分子に関して高精度の推算が行えた. この結果から, 実験値を用いたパラメータフィッティングや臨界定数を用いずに超臨界二酸化炭素に対する薬物の溶解度推算が可能であるモデルの構築に成功したといえる. 粒子設計技術の開発を目的として, 量子計算から得られる情報を用いて超臨界二酸化端に対する薬物の溶解度推算をおこない, その推算結果を用いて算出した過飽和度からRESS法により生成される薬物粒子の粒径予測をおこなった. TheophyllineとBenzoic acidの粒径を予測し, 実験値と比較した結果Theophyllineは誤差100nm, Benzoic acidは誤差20nmで粒径を予測できた. これは, Theophyllineに比べてBenzoic acidの方が高精度に溶解度を推算できたため粒径予測も高精度におこなえたと考える. 以上の結果から, 量子計算から得られる情報を用いて薬物の超臨界二酸化炭素に対する溶解度を推算し, さらにRESS法により生成され粒径の予測まで可能なモデルの基礎を構築できたと考える.
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今後の研究の推進方策 |
汎用物理シミュレーションソフト(COMSOL)を用いて, 回収部における流速・温度分布解析をおこなう. 流速分布から(i)結晶表面への分子拡散の影響, 温度分布から(ii)表面集積, (iii)結晶化潜熱の影響を検討し, 結晶成長過程における律速段階を検証する. 結晶成長挙動を解明することで結晶核生成・成長モデルを提案する. 構築したモデルを基に, 予測した粒子と実験で得られた粒子の粒径を比較することで問題点を明確にし, モデルの改善を行う. 最終的には, RESS法により特定の条件化で粒子創製を行った場合に得られる粒子の粒径は, 量子計算からの平衡物性推算+熱流動解析のみで予測可能となる.
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