本研究は,実験的アプローチと理論的アプローチを組み合わせることで二酸化炭素を用いた超臨界溶体急速膨張(RESS)法による薬物ナノ粒子の創製技術を確立することが目的である. 超臨界二酸化炭素に対する溶解度の計算の発展のために空孔理論に基づく状態方程式を用いた新たなモデル(混合固相モデル)の開発をおこなった.本モデルは,固相を二酸化炭素と薬物の混合物と仮定する新たなモデルであり,薬物の純溶質と仮定する従来のモデルとの推算精度に対する影響を検討した.23種の薬物に対して状態方程式を用いて溶解度の推算をおこなった.C,H,O原子で構成されている薬物の溶解度推算結果は,純固相モデルを用いた場合よりも混合固相モデルを用いた場合の方がわずかに実験値との偏差が小さかった.また,それ以外の原子を含む薬物の溶解度推算結果は混合固相モデルを用いた場合,純固相モデルよりも精度が向上した.混合固相モデルでは,二酸化炭素の固相に対する溶解度を算出可能であり,さらに,圧力や薬物種の影響も知ることができる.このことから,混合固相モデルは,高圧二酸化炭素下での固体溶質の融点降下現象のメカニズム解明に役立つことが期待される.本モデルが構築されたことで,実験データが存在しない物質や条件の溶解度が算出できる. 実験的に明らかにした過飽和度と平均粒径の関係性と構築した溶解度推算モデルを用いてRESS法により創製されるtheophylline粒子の平均粒径の予測をおこなった.さらに,ノズル出口以降の流体解析をおこない,得られた二酸化炭素の温度分布と過飽和度と平均粒径の関係性を用いて粒径分布の予測をおこなった. 本研究の成果は,RESS法により粒子創製をおこなう際に得られる粒子の平均粒径および粒径分布を把握することに有効である.また,所望の粒径,粒径分布を有する薬物微粒子の創製をおこなう際の装置,条件設定に有効である.
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