本年度は、既に報告したメチルアルミニウム試剤とロジウム触媒、二酸化炭素を用いた単純芳香族炭化水素の触媒的カルボキシル化反応について、その反応機構の研究を行った。その結果、当初想定した反応機構の通り反応がメタンの生成を伴うことを確認することができた。次いで、反応速度論に基づく解析により本反応の律速段階がC-H結合の切断であることを見出した。さらに、反応中間体のモデルとなるメチルロジウム錯体を新たに合成することに成功し、実際にベンゼンのC-H結合切断や続くカルボキシル化が進行することを確認することができた。また、反応に際し酢酸が多く副生するなど本反応の改善すべき点を明らかにすることができた。以上の研究成果は本反応の改善に有用であるだけでなく、錯体のC-H結合活性化やカルボキシル化の反応素過程に関する知見も含んでいることから、錯体化学的にも大変興味深い。 次に、触媒的C-H結合カルボキシル化反応の新たな手法として、取り扱いの難しいメチルアルミニウム試剤の代わりに塩基を用いたカルボキシル化の実現を目指し検討を行い、その触媒化を実現した。すなわち、基質である単純芳香族炭化水素を溶媒として用い、1気圧の二酸化炭素雰囲気下でロジウム錯体と塩基を混合、加熱するとC-H結合のカルボキシル化が進行し、触媒回転数最大15程度で対応するカルボン酸が得られることを見出した。現状では本反応の触媒活性は高いとはいえず更なる改善が望まれるが、塩基-遷移金属触媒系による単純芳香族炭化水素のカルボキシル化反応を新たに実現した点で本研究は意義深いものであると考えている。
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