研究課題/領域番号 |
12J09496
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
寺田 悠紀 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | テヘラン現代美術館 / ミュージアム / 革命 / 展示 / 近代 / 美術 / 文化政策 / コレクション |
研究概要 |
本研究は、テヘラン現代美術館の設立(1977)と変遷を事例として調査し、近代の概念・施設と言われる「ミュージアム」(美術館)を通して、イランにおける「近代」の受容と反発について理解を深めることを目指している。また、公共空間に展示される美術品の内容の変遷に注目しながら、「美」という概念と社会政治的要因の関わりについて明らかにすることを目的としている。今年度得られた成果は以下である。今年度はイラン・イスラム共和国テヘランを訪れ、1)昨年度収集することが出来なかった雑誌等のアーカイブの収集と、ペルシア語の資料を精読し用語の使い方等についての分析をすること、2)イランにおける「ミュージアム」の形成を更に深く理解するため、美術館だけでなく他多数の博物館の展示内容にも注目することを計画していた。1)についてはテヘラン現代美術館の付属図書館、ホセイニーイェ・エルシャード図書館、マレク国立図書館と博物館、イラン文化遺産・手工芸・旅行業協会などの機関を訪れ、革命後の博物館について書かれた専門誌「ムーゼハー」をはじめとする政府の文化政策の変遷を明らかにするための関連文献を収集した。また、1979年のイラン革命前に刊行されていた雑誌「タマーシャー」のバックナンバーやシーラーズ芸術祭(1967年から1977年までペルセポリスにて開かれた祭典)のために特別発行された新聞を入手した。これらのペルシア語の資料は、革命前後の変化を明らかにするために重要だと考える。2)については、2012年に建設された聖なる防衛博物館(イラン革命とイランイラク戦争に焦点を当てた展示)や旧アメリカ大使館の内部に設けられた博物館など、政府の政治的メッセージが強く打ち出されている施設に現代美術作品が展示されるという最近の傾向を概観し、調査対象の美術館への理解が深まった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実地調査では、「イスラーム革命」のメッセージがパフラヴィー朝時代に収集された近・現代美術作品と如何に折り合いをっけながら表象されているか具体的な事例を見ることができ、非常に有意義であった。更に、今年度は海外での2回の口頭発表を行う機会に恵まれ、日本の国立美術館における展示について(「Representations of distinct yet overlapping cultures in national artmuseums in Asia」)、また、世界史の叙述において自己と他者という壁を乗り越えられるか考察し(「Reconsidering Categories in World History : Towards Overcoming the Self-Other Binary」)、比較や方法論という観点から今後の研究遂行に欠かせない多くの知見を得た。論文の作成については当初の計画よりも時間を要している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、収集した資料と今まで行った口頭発表の内容を論文にまとめる予定である。具体的には、イランにおける「ミュージアム」の公共性に焦点をあてた考察を博物館学の雑誌へ、イスラーム革命前と革命後の美術作品の展示内容の変遷に注目した論文を地域文化研究の雑誌へ投稿することを目指している。同時に、イランにおける博物館学や地域文化研究の研究動向や英語圏における最新の研究にも目を向けるように努め、日本語以外の言語でも研究成果を発信していくことを目指している。
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