本研究では、筋強直性ジストロフィー(DM)の選択的スプラシング異常に着目して研究を行い、特にABLIM1の選択的スプライシングの分子機構について培養細胞を用いて調べた。すると、PTBP1というスプライシング因子をマウス筋芽細胞C2C12に過剰発現させると、ABLIM1のスプライシングは、DM患者で見られる異常なスプライシングに変化した。逆にsiRNAでPTBP1の発現量をノックダウンさせると、ABLIM1のスプライシングは正常型へと発現が変化した。以上のことより、DM患者やDMモデルマウスの骨格筋ではPTBP1の発現量が通常の骨格筋より増加している可能性があると考え、PTBP1のタンパク質とmRNAの発現量を、それぞれウェスタンブロットとリアルタイムPCRで定量した。すると、PTBP1のタンパク質発現量は、DMモデルマウスでは、正常のマウスより有意に発現量の増加が見られ、同様にDM患者においても、PTBP1タンパク質発現量の増加傾向が見られた。しかし、PTBP1のmRNAの発現量は、DM患者、DMモデルマウスの両者において、正常の骨格筋と比べて発現量の増加は見られなかった。 以上のことから、DM患者の骨格筋では、PTBP1の発現量がタンパク質レベル増加しており、それによってABLIM1など様々な遺伝子で選択的スプライシング異常が引き起こっている可能性がある。したがって、PTBP1のタンパク質発現量を減少させるような薬剤を見つけることができれば、スプライシングを正常化させる新規治療法の開発につながる。また、どのようにPTBP1のタンパク質発現量がDM患者で増加しているのか、その分子機構を調べることができれば、そこをターゲットとした薬物治療も可能になることから、本研究のスプライシング分子機構の研究は、治療法開発につながる意義のある研究である。
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