研究課題/領域番号 |
12J09604
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
桑原 拓也 埼玉大学, 大学院・理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | 芳香族性 / 重いメタロセン / トリプルデッカー錯体 / サンドイッチ錯体 / メタラサイクル |
研究概要 |
シクロペンタジエニドの1位をスズに置換したスタンノールアニオン種はシクロペンタジエドよりもかなり強力な電子供与性配位子として機能すると考えられる。そこで、ジリチオスタンノールに遷移金属試薬を作用させ、η^5-スタンノール錯体の合成を目指した。 まず、テトラエチルジリチオスタンノールとチタノセンジクロリドとの反応を検討したところ、作用させるチタン試薬の当量に依存して、予想外の生成物、TiSn_2三員環錯体及びTi_2Sn_4六員環錯体が得られた。これらの構造を各種NMRまたはEPR、X線結晶構造解析により同定した。また、三員環錯体に1当量のテトラエチルジリチオスタンノールを作用させると六員環錯体が定量的に得られた。これはテトラエチルジリチオスタンノールが強力な一電子還元剤として有用であることを示唆している。従って、テトラエチルジリチオスタンノールを用いてのη^5-スタンノール錯体の合成は困難であると考え、次にケイ素置換ジリチオスタンノールの合成を目指した。 アルファ位にトリメチルシリル基またはtert-ブチルジメチルシリル基を有するジリチオスタンノールを合成した。これらの^<119>Sn NMR及び理論計算の結果から、シリル置換ジリチオスタンノールのスズ上の電子密度はテトラエチルのそれと比べ大きく減少していることを明らかにした。従って、シリル置換ジリチオスタンノールと金属試薬との反応ではテトラエチルの系で問題となった還元反応が進行しないことが期待される。そこで、これらと[Cp*RuCl]_4との反応を検討した。その結果、トリメチルシリル基の場合はスタンノールの上下でCp*Ruがそれぞれη^5配位を受けたトリプルデッカー錯体が、tert-ブチルジメチルシリル基の場合は一つのCp*Ruのみが配位したアニオン性サンドイッチ錯体を得た。さらに、トリプルデッカーのサイクリックボルタンメトリーを測定したところ、スタンノールが非常に強力な電子供与性配位子として機能していることを実験的に明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度、私はジリチオスタンノールと金属試薬との反応により、特異な構造を有するスタンノール錯体の合成に成功した。また、当初の目的化合物であるη^5-スタンノール錯体も単離し、その構造をX線結晶構造解析により明らかにした。さらには、そのサイクリックボルタンメトリーを測定し、スタンノールが非常に強力なπ供与性配位子として機能することも見いだした。以上の研究成果は、期待以上の進展といえる。
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今後の研究の推進方策 |
アニオン性サンドイッチ錯体と金属ハロゲン化物の反応により、異種金属スタンノール錯体の合成を目指す。また、二つのスタンノールを炭素差で架橋し、これを金属の配位子とすることで、重いメタロセノファンの合成を目指す。 さらには、これらを用いた触媒反応へと展開していく。
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