研究課題/領域番号 |
12J09626
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
長田 健一 東北大学, 大学院・教育学研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | 価値多元社会 / 共生 / 市民的資質 / 社会科 / アメリカ合衆国 / 論争問題 / 正義 / 熟議 |
研究概要 |
平成24年度は、米国の公民教育分野のカリキュラム分析と、その背景理論の検討を行った。 1.カリキュラム分析 米国の公民科ないし社会科では、価値対立を解決するための学習として、社会的論争問題を中心に構成するカリキュラムが数多く開発されてきた。本研究が分析したその種のカリキュラムのうち、価値多元社会での共生にとって特に示唆に富むものが、熟議を通じて論争問題に対処しようとする"National Issues Forums"のプログラムである。これまで支配的だった個人の自律的意思決定型の学習と異なり、同プログラムは、人々がコミュニティの共通善の創出を目指して熟議に参加し、互いに学び合うことで、自他の価値の共存を図るものであった。これは、個人の決定権や形式的な投票の義務を過度に重視するのではなく、共同的決定や他者のアイデンティティの理解・承認をより重視する新しい方向性を示すものであり、その論理的特質を明らかにできた点に本研究の意義がある。なお、これについては、6月の学会発表にて成果の一部を報告した。 2.背景理論の検討 次に、上述のようなカリキュラムの変化(個人的自律的意思決定から共同的熟議的意思決定への転回)が生じた理論的背景を明らかにするため、1970年代以降の米国における正義論や民主主義理論の展開について検討した。その結果、社会的論争問題には、諸個人の価値(善)に中立であろうとするりベラリズムの原理では対応困難な部分があることから、諸個人の価値(善)を互いに理解し、その妥当性を吟味し合うような形のコミュニタリアニズムの考え方が有力となりつつあることが明らかとなった。なお、これについては論文にまとめ、投稿する予定となっている。またこれと関連し、1970年代以降の米国の社会科教育に関する理論研究において「社会正義」がどのように論じられてきたかを分析し、10月の学会発表にて報告を行った。,
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度は、米国で開発されてきた諸プログラムについて、育成が目指されている市民的資質の分析と、背景にある論理(価値の多元性の捉え方やそれへの対応原理)の検討を行うことができた。しかし、米国の社会科や公民科のナショナル・スタンダードに示される市民的資質やカリキュラム構成の論理との比較、関連性の検討が不十分となったため、「おおむね順調」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は博士論文の執筆に取り組んできた。しかし、当初の計画よりも調査内容を広げ、政治哲学などの知見を盛り込もうとしたことから、年度中に提出することができなかった。したがって平成25年度は、できる限り早い段階での博士論文の完成を目指し、提出次第、英国の市民性教育を対象とした研究に移行する。英国での取り組みについては、すでに分析済みの教科書やプログラムがあるため、それらと併せることで本研究の計画はおおむね達成可能と考えられる。
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