研究概要 |
本研究では当研究室で合成法を確立した四座ホスフィン(dpmppm=Ph_2PCH_2P(Ph)CH_2P(Ph)CH_2PPh_2)で構造規制した遷移金属クラスターを合成し, その錯体の特異な反応性と物性について評価を行っている. まず, 一つ目のテーマである「直鎖状パラジウム八核錯体」の研究では, 酸化還元活性なPd_8核錯体にプロトン酸を反応させるとPd_4核ヒドリド錯体に変化することが種々分光分析から推定された. さらに, ヒドリド錯体をコバルトセンで還元したところPd_8核錯体が再生することがわかった. そこで, プロトン存在下でPd_8核錯体に対し自然電位の-0.5Vから還元側に電位を掃引したところ, プロトン量に応じてピーク電流の増大がみられる触媒電流が観測された. このことから, 過剰量のプロトン存在下で直鎖状パラジウム人核錯体が電気化学触媒となり, ヒドリド錯体を活性種とする触媒的な水素発生が可能であることがわかった. これは, 低原子価クラスターであるために容易にH^+と反応した結果であり, さらにバルクの電極触媒表面上で起こる反応を分子で再現しようという課題にアプローチするものと評価できる. 以上は低原子価の金属鎖合成を目指した目的に適っている. 二つ目のテーマである「銅(I)ヒドリド錯体」では, dpmppm, Cu(I)イオンおよびNaBH4の反応から銅2核ヒドリド錯体と銅4核ヒドリド錯体を新たに合成した. これら錯体は温和な条件下で1気圧の二酸化炭素と反応し, Cu-H間にCO_2が挿入することで生成するギ酸イオンが配位した銅錯体に変換することが明らかとなった. また, これらにプロトンを反応させることでギ酸が定量的に生成することをNMRから確認した. さらに, 配位子の非配位のリンを酸化させた銅2核ヒドリド錯体を合成することでCO_2反応速度対する錯体の立体的な影響を評価することもできた. このように, ヒドリド錯体のM-H結合へのCO_2挿入に関して錯体化学的に研究した例は少ない. 現在はCu-H結合へのCO_2が挿入するプロセスに関してDFT計算を行い, そのメカニズムの解明を進めている, さらに, 銅2核および銅4核ヒドリド錯体がギ酸合成の触媒として機能するかの検討を行っている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「直鎖状Pd_8核錯体」の研究では, 過剰なプロトン存在下でPd_8核錯体が電気化学触媒となり, 触媒的な水素発生が可能であることが分かった. 今後は触媒的な水素発生に関する機能の評価を新たな目標に設定して研究を進める予定である. また, Pd_8核鎖内の電子状態を還元剤, 酸化剤によって自在に調整でぎる知見も得られており, この検討が骨格拡張へつながるものと期待している. さらに, 「銅ヒドリド錯体」の研究では, 新たに合成したCu_2およびCu_4ヒドリド核錯体のCu-H結合に温和な条件下でCO_2が挿入することがわかり, CO_2を有用な材料に変換できる安価な卑金属を用いた触媒の開発を目指している. 以上から2つのテーマにおいて広く研究を展開できた.
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今後の研究の推進方策 |
今後は, 直鎖状パラジウム八核錯体を用いた触媒的な水素発生に関する詳細なメカニズムを検討するとともに, その機能を備えた薪たな分子ロッドの開発へと研究を展開したいと考えている. さらに当初に研究の目的として掲げたPd_8核錯体を構造単位とした骨格拡張を検討したい. その戦略としてはPd_8核錯体を酸化もしくは還元して金属鎖内の電子状態を変化させることにより2分子間でカップルしたPd_<16>核錯体が生成することをねらっている. 二端子デバイスへの実用化のためにナノギャップなどを将来的に利用する観点から5㎚以上の分子を構築することを目標に設定しているが, 直鎖状パラジウム16核錯体が生成すれば約6㎚の鎖長を有するクラスターが得られ, 目標が達成される.
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