研究概要 |
フォンノイマン環に定義される基本群とよばれる不変量について研究している. この計算は非常に困難とされており, ほとんど全ての計算結果は, Cartan部分環と呼ばれる良い性質を持つ部分環とのペアを考える事で得られている. 私は今年度, 自由量子群から作られるフォンノイマン環について研究した. この環はフォンノイマン環論最大の研究対象である, 自由群フォンノイマン環に近い性質を持つ事が知られており, そのため非従順な量子群の最も重要な例であるとされている. 自由群環の持つ重要な性質を, 自由壁子群環に対して示す事に多くの研究者が興味を持っている. 私は昨年度の研究で, この環がII型の時にCartan部分環を持たない事を示していた. この環がIII型になってしまう場合にも, やはりCartan部分環を持たない事が予想されていたが, この場合は未解決だった. 私はこの間題を解くために, この環の連続核(いつもII型になる)を考え, それがCartan部分環を持たない事を示し, それを用いて元の自由量子群環がCartan部分環を持たない事を示した. 証明には, 私が昨年度の研究で示した連続核の性質(AO)と, De Commer, Freslon, 山下によって解かれた弱従順性と呼ばれる量子群の近似性質を本質的に用いた. III型環は一般に扱いが難しく, そのためIII型環の強い構造定理というのはあまり知られていない. 特にCartan部分環を持たないIII型環の例はほとんど知られてないため, 今回の結果は非常に興味深いものである. Cartan部分環を持たないという結果は, 私の本来の目的である基本群の計算には役に立たないが, 一方でこの結果から非常に強い構造定理「接合積フォンノイマン環と同型にならない」が従う, 本来基本群とは環の分類に用いるものである. 私の今回の結果は, 分類問題において, 基本群の計算により得られるよりもはるかに強い分類定理を意味しており, その意味では, 私が考えていたよりもはるかに意義のある定理を示すことが出来たといえる.
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今後の研究の推進方策 |
私は今年度末に, prime factorizationという性質について, 重要な結果をプレプリントで発表している. これもやはり自由群環について知られている性質を自由量子群で示したものであり, その証明は非常に技巧的である. 私は来年度も引き続き, このような強い構造定理を自由量子雄環について示す事を目標とするつもりである. 具体的には, Kurosh type theoremと呼ばれる自由積についての構造定理や, 自由量子群の作用から作られる接合積フォンノイマン環などの性質を調べていきたい. いずれも分類問題についての興味深い結果を導くものであり, また, 後者の結果からは基本群の計算などの応用例があると期待される.
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