研究概要 |
肺移植後・慢性移植肺機能不全は、主に閉塞性細気管支炎として知られていたが、急速に進行する病型:Restrictive Allograft Syndrome(RAS)が提唱され(Sato Metal,J Heart Lung Transplant 2011)、臨床・画像・病理学的特徴が閉塞性細気管支炎と異なることが判明した(Sato M,Saito T et al,J Heart Lung Transplant 2013/Ofek E,Saito T et al,Mod Pathology 2012)。主な研究実績は(1)-(3)の通りである。 (1)RAS 5例、閉塞性細気管支炎12例、肺移植後経過良好群13例を対象とし、気管支肺胞洗浄液中のサイトカイン濃度を網羅的に定量解析した。IL-6/IL-10比、CXCL10/IL-10比はRASで閉塞性細気管支炎、経過良好群に比較し高値を示した。 (2)RAS 11例、閉塞性細気管支炎19例、肺移植後経過良好群25例を対象とし、気管支肺胞洗浄液中のDamage-associated molecular pattern molecules(DAMPs)のうち、S100family,High mobility group box-1 proteinを定量した。S100蛋白はRASで閉塞性細気管支炎、経過良好群に比較し有意に高値を示し、閉塞性細気管支炎でも経過良好群に比し有意に高値を示した。S100蛋白は両病型のバイオマーカーであるとともに病態形成に寄与している可能性が示唆された。 (3)109例を対象にした後ろ向き研究では、多変量解析の結果、移植前ドナー肺におけるIL-6 mRNA高発現が閉塞性細気管支炎の早期発症と関連していた。一方、RASとの関連は認められなかった。 一方、XVIVO system(体外肺灌流システム)を応用した移植肺へのIL-10遺伝子治療はIL-6 mRNA発現を抑制する事が確認されており(Cypel M et al,Sci Transl Med 2010)、同治療法が移植後・閉塞性細気管支炎の予防的治療となる可能性が示唆された。XVIVO systemによるIL-10遺伝子治療に関しては前臨床試験(ブタ動物実験系)で安全性が確認された(Machuca T,Saito T et al,International Society for Heart and Lung Transplantation,32nd annual meeting and scientific sessions,2012,Pragueにて発表)。
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