研究概要 |
本研究は三次元的電子構造を有する分子性導体の開発を目指している。本目的のためにテトラチアフルバレン(TTF)にチオフェンを挿入した骨格をマクロサイクル型に拡張した屈曲型のπ電子ドナーを設計した。初年度はその三量体、四量体の合成に成功した。まず合成のKeyとなる3,4-dibutoxythiophene-2,5-dicarbaldehyde(3)の合成を改良した。これまでの報告ではdimethyl 3,4-dialkoxythiophene-2,5-dicarboxylateから合成される例が多かった。この反応では水素化リチウムアルミニウムを用いてアルコールにした後、高価な過ルテニウム酸テトラプロピルアンモニウムや2,3-Dichloro-5,6-dicyano-1,4-benzoquinoneを用いた触媒的酸化反応を必要とした。本研究課題では3,4位にブトキシ基を有するチオフェンに対してn-ブチルリチウムでリチオ化してDMFを反応させて安価で高い収率94%で得ることに成功した。この反応も以前から報告されてきたがn-ブチルリチウムの等量を2.8等量に増やす事で収率を30%程度も上げる事に成功した。次に化合物4と5をモル比1:2で亜リン酸トリエチルを用いたカップリング反応を行って、化合物6を収率72%で得る事に成功したが化合物7はほとんど得られなかった。次に化合物4と5をモル比1:3で同様の条件で反応させると化合物6を収率16%、化合物7を収率49%で得ることに成功した。次に過剰量の化合物4と化合物6,7をそれぞれWittig-Homor反応させて化合物8,9を64,34%の収率で合成した。環化反応は希釈反応条件下で化合物7と8もしくは7と9をWittig-Homor反応させた。希釈条件下で行ったにもかかわらず反応後は溶解性の悪い沈殿物(ポリマー)ができた。精製はそれぞれカラムクロマトグラフィーで行った後GPCで行い、低収率2%ながら合成に成功した。この低収率の結果はチオフェン回りのジチオール環の自由度が高いことが原因として考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に合成に成功した分子についてより深く考察していく。まず異性体が分子に与える影響についてGaussianを用いた分子軌道計算、温度可変NMRから考察していく。それを基に分子設計を再考し、それぞれの反応収率を向上させてより効率的な環状化合物の合成を見いだすつもりである。また、中性及び酸化状態の吸収スペクトル、サイクリックボルタンメトリーから酸化還元挙動を明らかにする。さらに、それらも温度可変測定を行うつもりである。 その後、得られたドナー分子の中性結晶の作製を行う。得られた単結晶はX線結晶構造解析を行い固体状態でのドナー間の相互作用やそれらが与える環内部への影響を明らかにしていく。結晶構造の決定で異性体が分子に与える影響について更に深く理解することができる。またラジカルカチオン塩の作製では最も環内に収まりやすい直線型(I_3^-,IBr_2^-,ICI_2^-,AuBr_2^-,AuI_2^-,Au(CN)_2^-,Ag(CN)_2^-)だけではなく、四面体型(BF_4^-,ClO_4^-,ReO_4^-,MX_4^-,M=Fe,Ga,In,X=Cl,Br,I)、八面型(PF_6^-,AsF_6^-,SbF_6^-,TaF_6^-,NbF_6^-)、平面型(M(CN)_4^<2->,M=Pt,Pd,Au(CN)_4^-,C(CN)_3^-,NO_3^-)の対アニオンについても作製しようと考えている。得られた単結晶はX線結晶構造解析を解明し、伝導度測定を行う。得られたX線結晶構造解析を基にバンド計算を行う事で理論的に理解し、電子構造と伝導挙動との関係を明らかにしていく。
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