研究課題/領域番号 |
12J09765
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
鴈野 佳世子 東京大学, 史料編纂所, 特別研究員(PD)
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キーワード | 美術史 / 中世絵画 / 模写 / 文化財保存学 / 掛幅縁起絵 |
研究概要 |
本研究は中世の掛幅縁起絵における〈模写〉の特性と意義、模写がどのように創作と関わってきたかを明らかにする。人物・建物・植物などモチーフ毎の部分模写を蓄積しながら作品の模写要素に着目することで、制作背景の解明や具体的な復元作業につなげることを目指す。 初年度、日本絵画における模写の歴史と意義の変遷については概論を論文にまとめ、研究対象の画像データ収集に着手した。詳細な画像データが入手できた作品の観察を進め、モチーフ毎に特徴的な描画の抽出および構図、画面構成の法則と効果について基礎的な分析を進めた。 また、真宗の絵伝に限らず、中世の社寺縁起絵など作画技法の面で関連の深い作品についても調査の機会があったため研究の視野を広げて取り組んだ。春日大社所蔵の春日社寺曼荼羅について原本調査を行い、赤外線写真を利用してトレース図を作成した。同社寺曼荼羅は美術史上重要な作品でありながら画面の欠損が著しく、図柄が確認し難い状態となっているが、赤外線写真、マクロ撮影によるデジタル画像解析により線描を描き起こし、現存する図柄を整理することができた。なお、作成したトレース図は松村和歌子「春日曼荼羅と社頭景観の史料」(『根津美術館紀要此君』第四号、2013年3月)に参考図版として掲載された。宮曼荼羅や社寺曼荼羅は絵伝と同様、同じ対象を描く多くの類似作品を比較することが可能であり、作画の中の模写要素を検討するための好材料といえる。 その他、関連する他の科学研究費研究2件に連携研究者として参加しており、本年度は東京藝術大学大学美術館および東京国立博物館所蔵の模本作品調査や、モノクロ撮影実験を通した色彩復元の技法開発に協力した。共同研究の成果については学会発表を行った他、2013年2月にシンポジウム「敦煌研究院と東京藝術大学-交流のこれから」にて「模写による文化財保存の新たな可能性」の題目で口頭発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度に目標としていた模写史の概要と模写の意義の変遷について論文にまとめることができた他、山梨県立博物館本法然上人絵伝など、研究上重要な作品について画像観察を進めることができた。先行研究、史料の収集にも努め、研究の基礎的な作業を進めることができた。また、復元的研究が求められる春日大社所蔵の春日社寺曼荼羅について原本調査とトレース図作成を行い、新知見を得ることができた。中世掛幅縁起絵に関する研究会にも参加し、研究報告などを通して中世絵画史や歴史学、宗教学等を専門とする多くの研究者と意見交換を行ない、今後の研究の方向性を定めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
課題である中世の説話画作品群の調査・分析およびサンプリングの抜き写しによる作画技法の研究については、初年度の作業を通して得た着想に基づき、特に甲斐万福寺旧蔵絵伝群に対象を絞り込んで比較研究を進めたい。同作品群は構図や場面選択に独自性が見られ、各作品の作画の特徴も異なるため、詳細な比較を行うことでその制作目的と制作時期・地域について考察を深めたいと考えている。 また、初年度に原本調査の機会を得た春日大社所蔵の春日社寺曼荼羅は宮曼荼茶羅の展開における美術史的な重要性に対し、大変傷んだ状態にある作品であり、残存する図柄の解析が課題となっている。トレース図作成を通して得た新知見については学会発表を行い(2013年7月、文化財保存修復学会)、引き続き復元的研究を進めていく計画である。
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