研究課題/領域番号 |
12J09765
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
鴈野 佳世子 東京大学, 史料編纂所, 特別研究員(PD)
|
キーワード | 美術史 / 中世絵画 / 模写 / 文化財保存学 / 掛幅縁起絵 / 社寺曼荼羅 |
研究概要 |
本研究は中世の掛幅縁起絵における<模写>の特性と意義、模写がどのように創作と関わってきたかを明らかにする。人物・建物・植物などモチーフ毎の部分模写を蓄積しながら作品の模写要素に着目することで、制作背景の解明や具体的な復元作業につなげることを目指す。初年度に引き続き、初期浄土真宗の絵伝や中世の掛幅縁起絵を中心に、画像データの収集およびトレース図の蓄積を進めた。甲斐万福寺旧蔵絵伝については部分トレースを通した図柄の比較研究を行い、2014年の文化財保存修復学会全国大会でポスター発表を予定している。大画面絵画のトレース作成にはデジタルトレースの手法を導入し、モチーフ毎に情報を分けて整理することにより、全体構図や群像の粗密、流れなどを視覚的に提示できるようになった。また、デジタルデータは拡大・縮小・反転が自在であり、モチーフ同士の形状の比較が容易となる等の効果を上げている。 画像および史料分析、トレース作業と併せて、縁起絵や高僧絵伝の舞台となる寺社の現地調査も行った。興福寺、春日大社、法隆寺、善光寺、西光寺、観興寺、大善寺玉垂宮などを訪れ、画中の描写と現在の景観比較、堂舎・安置仏の現状や付近の名所旧跡の確認、資料収集等のフィールドワークに取り組んだ。絵画表現と実景の関係性は、作画技法を解明し制作地域や制作者を推定する上でも重要な要素と考えている。 そのほか、中世の寺社縁起絵と作図面で関係の深い春日曼荼羅に関して、初年度に行った調査および研究成果を文化財保存修復学会にて発表し、論文「春日大社所蔵《春日社寺曼荼羅》の仏尊表現について」としてまとめた(学術雑誌に投稿し、現在査読中)。本図の仏尊表現について、依頼者・使用者の個人的な信仰を反映し古様な図像を組み合せていることを確認し、初期の春日曼荼羅の展開の様相を示す作品として重要性を指摘した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
主たる研究対象としている甲斐万福寺旧蔵絵伝について、龍谷ミュージアムにおける展示の機会に西本願寺本親鸞聖人絵伝六幅を熟覧することができ、法然伝・源誓伝との比較研究を深めることができた。観興寺縁起や春日曼荼羅など中世の社寺縁起絵、社寺曼荼羅についても順調にトレースを蓄積している。また、他研究者との共同研究により年中行事絵巻や江戸名所図屏風等についても部分模写を行う機会に恵まれ、人物の姿態や建物の描写等の資料を蓄積することができた。
|
今後の研究の推進方策 |
トレース作成を通した万福寺旧蔵絵伝の研究経過については2014年6月の文化財保存修復学会第36回大会でポスター発表を行う予定である。また、2014年秋に日本画の技法材料に関する書籍(他3名との共編著)を出版予定であり、本書を通して日本において大陸文化の受容手段や作画技法として用いられてきた「模写」についての研究成果を広く一般に公開できると考えている。
|