2015年2月~2016年1月は特別研究員採用を中断しており、ここで報告するのは採用を再開した2016年2月~3月の研究実施状況である。初年度から継続してきた古典絵画のトレース図作成について「古典絵画の線描分析とトレース図の利活用に関する試論」としてまとめた(『東京芸術大学社会連携センター紀要』第2号に掲載予定)。本研究課題では中世における日本絵画の作画手法として<模写>を研究対象としてきたが、本稿では絵画の構成要素のうち特に線描に注目し、線を写し取るという行為について考察した。今回は人物モチーフの線描にあらわれる描き手の個性について、実際に数名の学生・日本画家に同一モチーフを写してもらうことで比較検証を行ったが、建物や植物山水などの線描にあらわれる特徴についてはまた別の傾向があると思われる。加えて、作品研究においては筆致の特徴が時代や地域、絵師集団ごとの傾向なのか絵師個人の個性なのかといった判断も必要となってくる。今後はより多くの素材を検証し、美術史研究において絵画作品間の図様の継承性などが問題となる際に、線描の質というものをどのように言語化していくべきか検討を進めたいと考えている。 また、2015年6月に所属する文化財保存修復学会において第9回奨励賞を受賞した。同学会ではこれまでに中世絵画のトレース図作成や赤外線画像観察を通した作画技法および復元手法に関する研究を発表しており、その業績が評価されたものである。
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