研究課題/領域番号 |
12J09784
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
今村 菜津子 東京大学, 大学院薬学系研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 恐怖条件づけ / 扁桃体 / 内側前頭前皮質 / reinstatement / c-Fos / 消失学習 / ドパミン / 復元 |
研究概要 |
本研究の目的は、恐怖反応の回復(復元)メカニズムの解明である。不安障害の患者では、恐怖を適切にコントロールすることが困難になり、過剰な恐怖反応を示すことが問題となる。治療には、薬物療法と併せて、カウンセラーの指導のもと患者を恐怖の対象に段階的にさらすことで克服させる「暴露療法」などの認知行動療法が適用される。しかし、35%を超える高い再発率が未だに課題である。本研究は、暴露療法の動物モデルとして、マウスを用いた恐怖条件づけと消失学習を利用し、一度消失した恐怖反応が時間経過に伴い再び現れる「復元」と呼ばれる現象に着目し、このメカニズム解明を目指している。採用1年目の研究により、恐怖を抑制する消失学習に必要な内側前頭前皮質が長期抑圧され、恐怖の発現に必要な扁桃体中心核を脱抑制することが、復元に関与することを示した。 内側前頭前皮質で長期抑圧が引き起こされるメカニズムとして、ドパミンの関与を検討した。ドパミンは報酬のみでなく嫌悪学習にも関与することが示唆されており、特に、内側前頭前皮質へのドパミン性神経細胞の投射は、嫌悪情報を担うことが近年示された。復元を誘導する刺激を提示する直前に、ドパミンD1受容体アンタゴニストであるSCH23390を内側前頭前皮質に局所投与したところ、復元が障害されることを発見した。 これまで、実験動物を用いた消失学習の研究が、暴露療法に科学的根拠を与えることで、不安障害の治療法に貢献してきている。消失学習について、多くの研究がおこなわれているのに対し、復元に焦点を当てた研究は非常に少ない。復元は、治療後の再発のメカニズムである可能性があり、研究する意義が大きいと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請研究1年目に、復元のメカニズムとして、内側前頭前皮質における長期抑圧を明らかにしたが、さらにこの背景にある分子メカニズムとして、ドパミンの関与を解明することに成功したため。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、内側前頭前皮質に投射するドパミン神経細胞がどのようなタイムコースで活動するかを、カルシウムイメージング法を用いて調べたいと考えている。具体的には、ドパミン神経に特異的にカルシウム蛍光指示薬を発現する遺伝子改変マウスを用いて、復元を誘導する刺激を与えた際の神経活動を検出する予定である。
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