本年度は,走査トンネル顕微鏡/分光法(STM/STS)によって確認された強磁性金属La0.75Ca0.25MnO3/SrTiO3(100)薄膜における表面絶縁化について,理論計算によりその金属-絶縁体転移の機構を解明し,表面・界面において良好な強磁性金属状態を実現するための指針を検討した. まず,Caをドープしない母物質のモット絶縁体LaMnO3について検討し,STO基板によるストレインのかかったtetragonal相を初期値として構造最安定化を行った.すると,初期値のtetragonal相がエネルギー極小値をとるため,面内の異方性を反映したzigzag構造をとり得ず,金属的な表面状態が確認され,STM像及びトンネルスペクトルともに再現しなかった.そこで,表面のzigzag構造がバルクのorthorhombic構造に由来すると考え,バルク体の構造データを初期値として表面最安定化を行った.すると,バルクを反映して面内で異方的な構造をとり,STMシミュレーションにおいても当該zigzagを再現した. これをもとに,Caのドーピングについて考察した.置換サイトを変えて全エネルギーの深さ依存性を計算した結果,Caは表面近傍よりも深い位置で置換されやすいことがわかった.これはイオン半径の差によるMnOx正八面体の傾斜に起因する.またCa置換による大きな正八面体傾斜はSTM像のzigzag構造を消失させた.すなわち,エネルギー的にCaが表面近傍を好まない点はSTMの現象論からも支持される.このように表面・界面では,薄膜内部で想定される構造や組成比とは必ずしも一致せず,より精緻なデバイス設計が求められる.
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