研究課題/領域番号 |
12J09800
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
岩田 京子 立命館大学, 先端総合学術研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | 風景 / 風致 / 文化人類学 / 歴史 / 京都 |
研究概要 |
平成24年度の本研究では、風致地区制度の適用地域を同時代的フィールド調査の対象として、風致にたいする人びとの言説や態度のあり様の多様・多元性を検証するという研究目的を達成するために、(1)フィールド調査に先立つ予備的な手続きとして「歴史資料の調査と分析」(2)「断続的な短期(旧)の参与観察」を行なった。 (1)の調査は、風致を含む伝統の再評価、あるいは再帰的近代とみなすことのできるものの評価を行なう、地域の住民や組織の活動の形態、領域を調べることを課題とした。旧大阪営林局、京都大阪森林管理事務所の資料を調べ、京都において風致地区が初めて設定された1930年代における嵐山国有林の風致施業計画の分析と、都市史、園芸史、林業史等の学史的検討を進めた。 (2)の調査では、風致地区制度など風景管理に係わる政策にたいする、現代の草の根レベルでの人びとの言説、態度に接近することを課題とした。嵯峨嵐山地域における寺社の関係者への聞き取り調査を通じて、嵯峨嵐山地域の寺社関係者、住民らが係わりをもつ嵐山地域景観づくり協議会設立準備会の活動と、それを契機とした風景の保護/破壊にまつわる議論のあり様を参与観察する機会をもった。 このような2つに大別できる調査によって、1930年代から現代に至るまでの日本における風致地区制度の成立・展開過程で、風景の保護や破壊をめぐる議論がおこったとき、その渦中での当事者の語りや行動を、保護/破壊といった二分法に収斂させることのできない雑多なものとして、ごく一部分ではあるが把握することができた。本研究は、人びとの間で「風景を守る」言説がどのように生成されてきたのかを明らかにすることは、法的用語として風致や風景が用いられる現代の状況を相対的に捉える点に意義がある。また、場所(空間)とそこに生活する人間の関係を対象とした歴史人類学という比較的新しい研究領域の構築を促す点で重要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画にもとづいた調査をおおむね進めることができた。風景の破壊と保護をめぐる語りを検討するという主題の課す必然として、歴史的な動向への遡行を多面的に試みた結果として、現段階で中間的な成果報告を示すことがむずかしく、具体的な業績につながらなかった部分もあるが、今後、調査の進展を目指したい。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題においては今後、計画に沿って、日本におけるフィールド調査をより進めていくことが必要である。そのなかで、風致地区の適用地域で生活する、あるいはその場を訪れる人びとの、日常生活のリズムの文脈に照準し、雑多な言説や態度がはらむ、人によるその生きる場の愛し方、関係のもち方の様々な可能性を開かれたものとして担保することを目指し、一方では、風致にたいする人びとの言説を、個々の思想的背景への考察を深めて理解することを試みるというようにして、調査活動を進めるようにする。
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