本研究では、DNAやヒストンのメチル化といったエピジェネティックなクロマチン修飾に着目することで、個々の遺伝子の発現状態を正常に維持するメカニズムの解明を目的とした。 昨年度までに、メダカの組織、およびヒトの公開データを用いたゲノムワイドな解析から、種間で保存された巨大なDNA低メチル化領域が発生において重要な機能を持つ転写因子を修飾していることを明らかにした。さらに、この巨大なDNA低メチル化領域は抑制型のヒストン修飾を非常に高レベルで含んでおり、遺伝子発現が非常に強く抑制されているということを明らかにした。成体の細胞においては、このDNA低メチル化領域のサイズが縮小することで長期的な遺伝子発現の維持に寄与していることが示唆された。 25年度では、このDNA低メチル化領域の抑制型のヒストン修飾レベルが、DNA低メチル化領域内の非メチル化CpGの数と相関することを示した。先行研究において、抑制型のピストン修飾を修飾するポリコーム遺伝子群が非メチル化CpGに結合しやすいということが報告されている。従って、本結果と合わせると、初期胚においては、巨大なDNA低メチル化領域がポリコーム遺伝子群を呼び込み、発生を制御する転写因子の発現を強力に抑えることで未分化状態を維持していることが示唆された。 また、メダカの変異体と野生型のヘテロ個体を用いた解析から、DNA低メチル化領域のサイズの縮小には、その領域のクロマチンが活性状態になることが必要であることを示した。この結果は、発生に重要な遺伝子は胚発生時期に発現すると自律的にDNA低メチル化領域の縮小が起こり、遺伝子発現が維持されることを示唆している。従って、本研究は巨大DNA低メチル化領域が細胞の分化・未分化状態の制御に寄与する可能性を示した。
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