研究課題/領域番号 |
12J09845
|
研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
江尻 寛子 国立感染症研究所, 昆虫医科学部, 特別研究員(PD)
|
キーワード | 節足動物媒介性感染症 / 吸血性節足動物 / アルボウイルス / 鳥マラリア原虫 / アジア |
研究概要 |
本年度はアジアに分布する蚊からのアルボウイルスおよび鳥マラリア原虫の分離、さらに蚊のウイルス保有情報などの基礎情報の収集を目的とし、調査を実施した。国内8か所およびフィリピンで捕集した蚊をサンプルとし、ウイルスの分離を試みた。また、一部のサンプルに関しては鳥マラリア原虫遺伝子の検出も試みた。さらに、兵庫県下で捕集したダニのウイルス保有状況に関しても調査を行った。 (1)国内の蚊のウイルスの保有状況 国内で捕集した蚊からウイルスの分離を試みた結果、蚊特異的ウイルスであるCulexフラビウイルス(CXFV)、Aedesフラビウイルス(AEFV)、コガタアカイエカラブドウイルス(CTRV)が分離された。また、東京都林試の森で捕集された蚊サンプルの内、細胞変性が認められたが、既知のアルボウイルスウイルス検出プライマーではウイルスゲノムの増幅が認められないサンプルが存在した。解析した結果、感染性因子の存在が確認され、現在詳細解析を進めている (2)フィリピンの蚊のウイルス保有状況 フィリピンの国内3か所で捕集した蚊からウイルスの分離を試みた結果、蚊特異的ウイルスであるCell fusing agent virusおよびCXFVが分離された。 (3)国内の蚊の鳥マラリア原虫遺伝子保有状況 国内で捕集した蚊の内、ウイルス分離に用いたサンプルの一部を用いて、常法により鳥マラリア原虫遺伝子の有無を確認した。その結果12サンプルで鳥マラリア原虫遺伝子が検出された。今回検出された鳥マラリア原虫遺伝子は、これまで国内で検出された配列と近縁であった。 (4)国内のダニのウイルス保有状況 兵庫県下で捕集したダニからアルボウイルスの分離を試みた。その結果、細胞変性が認められたが、既知のウイルス検出プライマーではウイルスゲノムの増幅が認められないサンプルが存在した。解析した結果、感染性因子の存在が認められた。今後、分離したウイルスの詳細解析を進めていく予定である。 以上、国内外の蚊のウイルスの保有状況に関する情報を得ることができ、国内の蚊の鳥マラリア原虫遺伝子の保有状況に関する情報の蓄積もできた。今回分離されたウイルスの一部は、国内初報告もしくは新種のアルボウイルスである可能性が高く、現在詳細解析を進めている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、アジアおよび国内に分布する吸血性節足動物の病原体保有状況を含めた基礎情報を収集することを目的とし、蚊およびダニからウイルス分離を試みた。また国内の一部の蚊のサンプルについては、鳥マラリア原虫遺伝子の保有状況についても調査した。その結果、国内外の蚊のウイルスの保有状況に関する情報を得ることができ、国内の蚊の鳥マラリア原虫遺伝子の保有状況に関する情報の蓄積もできた。また、今回蚊およびダニから分離されたウイルスは、国内初報告もしくは新種のアルボウイルスである可能性が高く、現在詳細解析を進めている。以上のことから、おおむね順調に研究が進展しているといえる。
|
今後の研究の推進方策 |
蚊およびダニから節足動物が媒介する脊椎動物ウイルス(アルボウイルス)を3株分離することに成功した。今後、これらのウイルスの詳細解析を実施する一方で、引き続きアジアに分布する蚊のアルボウイルスおよび鳥マラリア原虫の保有状況、浸淫状況に関する基礎情報の収集を試みる。 具体的には、ゲノム情報の取得・収集、ウイルス学的諸性状を詳細に解析し、情報の蓄積を行う。また、分離ウイルスを節足動物に経口的あるいは胸部に接種し、real-time PCRによるウイルスゲノムの定量測定を実施し、蚊体内でのウイルス増殖の有無を判定する。さらに、マウスなどの脊椎動物への接種試験を実施し、脊椎動物への感受性の有無について調べる。その一方で、これら病原ウイルスに対する血清学的診断法を確立し、野生動物の血清を用いてウイルスの抗体の有無を調べ、野外におけるウイルスの分布状況に関する情報の収集を目指す。
|