研究課題/領域番号 |
12J09856
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研究機関 | 玉川大学 |
研究代表者 |
青木 隆太 玉川大学, 脳科学研究所, 特別研究員(PD)
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キーワード | fMRI / 報酬系 / 線条体 / 前頭前野腹内側部 / 公平性 / 社会比較 / 神経経済学 |
研究概要 |
本研究は、"自由"や"平等"という倫理的・哲学的な価値観が、人間の脳内でどのように表現されているかを明らかにすることを目標としている。具体的には、「選択の自由」および「機会の均等」の概念に注目し、これらの価値が脳内でどのように形作られているかを機能的磁気共鳴画像化法(fMRI)を使用して調べている。本年度は、2人のプレイヤー(実際に脳活動計測を受ける実験参加者と"サクラ"のペア)が社会的な状況下で選択をおこなう実験課題を用いて、「選べる選択肢の数」によって規定される選択の自由度の高さおよび機会の平等さと脳活動の関係を解析した。20名の大学生に対してfMRI実験を実施したところ、脳内の"報酬系"と呼ばれる部位において興味深い結果が得られた。第一に、報酬系の一部である線条体では、(サクラが選べる選択肢の数とは無関係に)実験参加者自身が選べる選択肢の数が多くなるほど脳活動が大きくなることが見いだされた。第二に、報酬系の別の部位である前頭前野腹内側部では、実験参加者自身とサクラの2者間で選べる選択肢の数の差が小さいほど脳活動が大きくなることが見いだされた。これらの知見は、線条体において「選択の自由」の価値が、前頭前野腹内側部において「選択の機会の平等」の価値がコードされていることを示唆するものである。先行研究では、自己と他者の間での金銭的報酬の分配において「結果の平等」が報酬系を賦活させることは知られていたが、「機会の平等」に着目した脳科学的研究はこれまでに全く存在していなかった。しかし、現実の人間社会においては、「機会の平等」は「結果の平等」と同等に、あるいは時にそれ以上に重視されている。したがって、本研究は「平等」や「公平」という倫理的価値観をより広い次元から捉えるための視点を提供するものであり、脳科学と他の学問領域の融合を推進することにも貢献すると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の研究計画において2年目に実施する予定であった、「選択の自由」と「機会の平等」の両方を同時に扱う実験を1年目である本年度に実施・完了することができたため。
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今後の研究の推進方策 |
「選択の自由」にどの程度の価値を置くかの個人差が、どのような個人特性や脳内プロセスに由来するのかを検討する。また、共同研究先であるカリフォルニア工科大学との連携をさらに密接にし、日米での「選択の自由」に対する価値観の違いが脳活動や行動にどのように反映されているかを実験的に明らかにする。
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