採用最終年度にあたる本年度は、昨年度までに得られた研究成果の総括として、受入研究者である松元健二教授とともに2本のレビュー論文を執筆・出版した。第一のレビュー論文は 1) 社会的平等の評価・処理に関わる神経基盤を扱ったこれまでの脳機能イメージング研究を概説し、2) 今後「結果の平等」と「機会の平等」の脳内処理過程の差異を研究していくことの重要性を述べたもので、「Neuroscience Research」誌に掲載された。第二のレビュー論文は、「選択の機会の平等」をめぐる議論について、政治哲学や経済学的な背景にも触れつつ自身の脳機能イメージング研究の内容を紹介したもので、「臨床神経科学」誌に掲載された。採用最終年度に自身の研究成果を土台としたレビュー論文を執筆することは、研究計画申請時に設定していた目標のひとつであり、この3年間で当初の研究計画はおおむね期待通りに達成できたといえる。 一方、「機会の平等」の神経基盤を別の角度から調べるために、行動経済学のアプローチを取り入れた新たな実験デザインを開発し、大学生12名に対して予備的な実験を実施した。その結果、「機会の平等あり」条件と「機会の平等なし」条件の比較において仮説通りの方向に行動上の違いがみられたものの、条件間の差は有意ではなく、実験デザインや参加者への教示を工夫する必要があると思われる。この研究トピックに関しては来年度以降も引き続き取り組む予定である。
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