研究概要 |
巻貝の貝殻が螺旋状に規則的に巻くためには, 貝殻形成を担う外套膜の細胞に位置情報を与え, 貝殻の成長量を外套膜の部位間でコントロールする必要がある。しかし, 実際にどのように細胞の位置情報を与えているかは不明であった。先行研究において貝殻形成に関わる貝殻腺での発現が報告されていたシグナル分子Dppをコードするdppと呼ばれる遺伝子の発現パターンが成貝になるまで維持されているかを明らかにするため, 成貝の外套膜におけるdppの発現解析(定量PCR法)を行った。その結果, タケノコモノアラガイ(Lymnaea stagnalis)の右巻き個体(野生型)では外套膜の右側で, 左巻き個体(突然変異体)では左側で強く発現しているのに対し, 螺旋状に巻かずにカサ型の貝殻を形成するセイヨウカサガイ(patella vulgata)では左右で発現量に差がみられなかった。さらに, 螺旋型の巻貝において観察された遣伝子dppの左右非対称な発現パターンが実際に左右非対称なシグナルとして伝達されているかを調べるために, ウエスタン・プロッティング法を用いてDppシグナルを下流へ伝達するリン酸化Smad1/5/8〔pSmadl/5/8)の発現解析を行った。その結果, 遺伝子dppの発現パターンと同様, pSmad1/5/8の発現パターンも巻貝では左右非対称であるのに対して, カサガイでは左右対称であることが明らかとなった。先行研究において遺伝子dppは外套膜の細胞の分裂活性を制御していることが知られており, 今回得られた左右非対称な遺伝子dppの発現パターンは左右で細胞分裂の速度を変化させることで外套膜の拡張パターンが左右非対称になり, それによって作られる貝殻の成長速度に差が生じた結果, 貝殻の螺旋成長を引き起こしている可能性を示唆する。
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