研究課題/領域番号 |
12J09870
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研究機関 | 日本女子大学 |
研究代表者 |
伊達 舞 日本女子大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 中世王朝物語 / 『今とりかへばや』 / <家> / 親子関係 / 子ども |
研究概要 |
平安時代より続く王朝物語の中世における独自性を<家>という側面から作品を読み解くという目的のもと、平成24年度は実社会における<家>のあり方とその変化を整理・把握しつつ、王朝物語史の転換期にあたるr今とりかへばや』を起点に『源氏物語』『狭衣物語』『浜松中納言物語』『夜の寝覚』など平安中・後期の王朝物語諸作品の研究を行った。この成果の一部はすでに「『今とりかへばや』の<家>への意識一<血脈>上の子どもから<家>のための子どもへ一」という論題で物語研究会6月例会(学外学会)にて研究発表を行っており、そこで更なる知見を得て現在は『国文目白』53号(2014年2月刊行予定)での論文発表に向けて、内容をより深化させた論文を執筆している最中である。 また上記研究の過程で、王朝物語史における『狭衣物語』の重要性を再確認した。これまでも文章表現法や物語のモチーフ(例えば引き歌表現や苦悩する主人公のモチーフなど)レヴェルで中世王朝物語への影響が指摘されてきた『狭衣物語』だが、作中人物の親子のあり方、特に生まれた子どもの移動や<血筋>の隠匿などにはすでに中世王朝物語と根底で問題を一にする<家>への意識が見られた。これを今後の研究の足がかりとすべく、より深く作品を理解するために夏より狭衣物語研究会(学外研究会)に入会し『狭衣物語』に関する最先端の研究知識の摂取に努めた。また研究会では単に知識を吸収するだけではなく、11月と3月には作中人物の親子関係という切り口から『今とりかへばや』の<家>への問題意識を読み解く研究の発表をした。これは一連の王朝物語の流れの中で問題を読み解いていこうという意識のもと『狭衣物語』から中世王朝物語を展望したものであるが、『狭衣物語』研究に対しても作品内部からだけでは読み解ききれない問題に新たな解決の糸口を示すものであり、更には『狭衣物語』『今とりかへばや』に限らず広く物語文学を研究する上で大きな視座を提示することが出来たという点でも意義を持つ。なお、この研究の成果は来年春刊行予定の同研究会編『狭衣物語文の空間』(翰林書房)にて発表予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の研究計画通り実社会における〈家〉の整理と王朝物語に表れる〈家〉の模索・考察を進め、その成果を物語研究会(学外学会)において口頭発表したことに加え、より作品世界に密接した新たな視点から王朝物語に内在する〈家〉の問題にアプローチすべく狭衣物語研究会(学外学会)に入会、二度に渡り研究発表を行った。 これら研究成果の論文発表の目処も立っており、研究は順調に進んでいるものと判断する。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は引き続き個々の物語にあらわれる〈家〉の考察を行う一方、実社会における〈家〉のあり方の変化との関係一特に11世紀と13世紀をポイントとした家族制度や〈家〉という社会的枠組の物語世界への影響を考察していく。その際、これまでの研究で作中人物の親子関係や養子関係など子どもの移動に〈家〉への意識が表出しやすいという傾向が明らかとなったため、今後は特に親子関係に着眼して研究を進めていく方針である。また取り扱う作品については、2012年5月の時点では平安時代前期成立の作品に移るか院政期~鎌倉時代の所謂中世王朝物語諸作品に取りかかるか未定としていたが、後者を主として取り扱うこととする。 平成26年度の前半は実社会における〈家〉のあり方の変化との関係に留意しつつ、平安中期の王朝物語と中世王朝物語といわれる鎌倉期の王朝物語とを平安後期物語・院政期物語を橋がかりとしつつ比較・考察し、差別化する。後半は研究の総まとめとして、2年半で得られた結果を踏まえながら中世の王朝物語の文学的価値を見出し、物語文学史上での位置づけをする計画である。
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