研究課題/領域番号 |
12J09870
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研究機関 | 日本女子大学 |
研究代表者 |
伊達 舞 日本女子大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 中世王朝物語 / 『とりかへばや』 / 親子関係 / 母 / 子ども / 〈家〉 |
研究概要 |
中世王朝物語を〈家〉という側面から読み解くことで、その文学史的意義を明らかにすることを最終目標に、平成25年度は『とりかへばや』(注)を軸にそれ以降の物語を考察する計画で研究を行った。 方法としては、昨年度の研究成果から見出した「親子関係」に着眼し、父・母・子をキーワードに作品を読み解くことで、物語の抱えた〈家〉の問題へと迫った。 中世王朝物語の一つ『とりかへばや』においては、平安朝物語にしばしば描かれる「不義の子」の苦悩が殆ど描かれないばかりか、積極的に〈家〉に取り込まれている。また女主人公が我が子を「見捨て」て后・国母となる点も改作以前の古本(平安朝成立)にはなかった構想で、全体的には〈家〉の物語としてのハッピーエンドを目指して進行していく。 ただし、親子の繋がりに全く無関心なわけではないことも判明した。新たに取り入れられた国母構想が女主人公自身の幸福と結びつけられることはなく、我が子と離れ離れになってしまった母としての苦悩が描き出されている。更に父・母・子をキーワードにこの問題を再考すると、従来「我が子を見捨てた」とされる彼女の方が、父である宰相中将よりも我が子と深く結びついていることが明らかとなった。 この問題を更に追求するため、王朝物語における母の姿を調査し、『とりかへばや』の母たちと比較考察を行った。その結果、彼女たちはいずれも、母に求められる役割を果たし得ていないことが判明した。『とりかへばや』女主人公の母としての姿は、物語全体を通じての「母」の問題のうちに位置づけられるのである。 「母」の問題は、継子いじめで有名な『住吉物語』の改作、またそれが実の母子間で見られる『木幡の時雨』など、多くの中世王朝物語において無視し得ない。そしてまた、〈家〉の問題において母と子の「産み/産まれる」関係は重要な意味を有しており、今年度の研究成果は次の研究へと繋がる有益なものであった。 (注)昨年度まで書名を『今とりかへばや』と認定していたが、研究を進める過程で今一度書名の問題と向き合った結果、『とりかへばや』とするのが妥当との結論に到り、今年度より改めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の研究計画通り親子関係に着眼することで上記結果が得られており、学内学会だけでなく学外の研究会においてもその成果を発表した。更にそこで新たな知見を得て研究の精度を高め、全国規模の学会での研究発表、学外研究者との共著の刊行も予定されている。以上のことから、研究の進展は期待以上に大きかったと考える。
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今後の研究の推進方策 |
「親子関係」に着眼することでこれまでに一定以上の研究成果が得られているため、今後も基本方針としては「親子関係」を軸に研究を推進していく予定である。特に、9.で述べた通り「母」の問題は多くの中世王朝物語において無視し得ないものであり、この視点を重視していきたい。 また平成二十六年度は本研究実施の最終年度でもある。従って年度の後半には、研究の総まとめとして2年半で得られた成果を踏まえながら、平安後期物語・院政期物語を橋がかりとして中世王朝物語独自の文学的価値を見出し、物語文学史上での位置づけをする計画である。
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