研究課題/領域番号 |
12J09874
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
埋忠 美沙 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(PD)
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キーワード | 河竹黙阿弥 / 正本写 / 『小幡怪異雨古沼』 / 『怪談木幡小平次』 |
研究概要 |
河竹黙阿弥の幕末作品の研究をおこなった。研究計画においては、今年度は五代目尾上菊五郎と三代目澤村田之助の主演作を研究対象としていたが、調査を進める過程で、四代目市川小団次の主演作により重要な作品が散見することが確認できたため、今年度と来年度は小団次の主演作を研究対象とすることに変更し、研究を推進した。 「(1)正本写合巻の調査・撮影」および「(2)『怪談木幡小平次』および『小幡怪異雨古沼』の研究」を当初の予定通り遂行した。次に各成果の詳細を述べる。 (1)演出研究に伴い絵画資料(役者絵と正本写合巻)を活用するため、資料調査をおこなった。役者絵は調査と公開が進みインターネット上で閲覧できるため、それを活用して研究を推進した。一方、興行に伴い制作された正本写合巻は従来研究が十分におこなわれていないため、幕末の黙阿弥作品を中心に調査をおこない、上演資料との校合を進めた。 (2)『怪談木幡小平次』の台本および正本写と、『小幡怪異雨古沼』の正本写の翻刻を共同研究でおこない、日本芸術文化振興会の叢書として刊行した。同時に、二作の作品研究を個人研究でおこない、『〔正本写合巻集・11〕怪談木幡小平次・小幡怪異雨古沼』の解題を執筆して成果を公表した。台本が現存しない『怪談木幡小平次』は正本写が作品の詳細を知りうる資料であるため、上演資料(番付、役者評判記)と内容を照合し、正本写化に伴う改変の詳細を分析した。『小幡怪異雨古沼』は台本と正本写を校合し、正本写化の特徴の詳細を分析した。 上記の成果のほか、次の二つの成果がある。第一に、『最新歌舞伎大事典』(柏書房、平成24年7月)に河竹黙阿弥関連の項目を中心として計21項目を執筆した。第二に、博士学位請求論文「黙阿弥の研究-江戸の善人と悪人-」を早稲田大学文学学術院に提出した(平成25年1月)。博士論文については4月末日の公開審査を経て、学位取得の可否が決定する見込みである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定として、本年度は「(1)正本写合巻の調査・撮影」と、「(2)『怪談木幡小平治』および『小幡怪異雨古沼』の研究」を計画していたが、双方とも順調に進展した。(1)については、当初関西の研究機関への調査も計画していたが、東京の研究機関(国文学研究資料館、早稲田大学演劇博物館、明治大学図書館)の所蔵資料だけでも大部であったため、関西の研究機関での調査はおこなわなかった。また、研究計画には立てなかったが、河竹黙阿弥の幕末作品をテーマとした博士論文『黙阿弥の研究-江戸の善人と悪人-』を提出したのは大きな成果であった。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度におこなった正本写の調査中、学会未紹介の資料として『小袖曽我葡色縫』(安政6年2月江戸市村座初演)の正本写の「稿本」を見付けた。そこで平成25年度は本資料の分析をおこなうとともに、『小袖曽我葡色縫』の作品研究をおこなう。本資料は、刊本では彫り替えた形跡が見られる箇所がそのまま記されていることから、正本写の下書きである可能性が高い。『小袖曽我葡色縫』は初演台本も現存しており、台本と正本写の稿本および刊本を校合することで、正本写が完成する過程を詳らかにすることを試みる。5月末にカリフォルニア大学サンタバーバラ校のシンポジウムで正本写と歌舞伎の関係を講演するが、ここで「稿本」の特徴を発表する。また、12月開催の歌舞伎学会において『小袖曽我葡色縫』の典拠について発表する。あわせて正本写の刊本を翻刻し、何らかのかたちで広く公開することを目指す。また、正本写合巻の調査を平成24年度に引き続き継続して推進する。
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