研究課題/領域番号 |
12J09889
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研究機関 | 熊本県立大学 |
研究代表者 |
三小田 憲史 熊本県立大学, 環境共生学研究科, 特別研究員(PD)
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キーワード | 多環芳香族炭化水素(PAHs) / 光化学反応 / 沿岸域 / 環境動態解析 / ハロゲン化多環芳香族炭化水素 / 水酸化多環芳香族炭化水素 / 毒性 |
研究概要 |
多環芳香族炭化水素(PAHs)は有機物の不完全燃焼や石油の流出事故に伴い沿岸環境へと流入する環境汚染物質である。沿岸域に蓄積したPAHsは、太陽光に曝されることによって、何らかの光化学反応を受けているものと予想される。しかしながら、沿岸域におけるPAHs光化学反応生成物の構造や、それら生成物の毒性に関する知見はこれまでほとんど得られていない。そこで本研究では、沿岸域におけるPAHsの光化学反応による構造および毒性の変化を解析することを目的とした。実験室内において干潟環境を再現した条件下でPAHsを添加し紫外線を照射した結果、塩分に依存したハロゲン化PAHsの生成が認められた。そこで、光化学反応によるハロゲン化PAHsの生成が実際の環境中で進行しているのかを確認するため、九州有明海に注ぐ河川を対象として上流域から河口まで連続的に底質を採取し、PAHs、ハロゲン化PAHsおよび底質間隙水中の塩分を測定した。その結果、PAHsは間隙水中塩分と関連性を示さず流域全体に遍在していたが、ハロゲン化PAHsは塩分が高い河口域に集中して蓄積していた。この結果は、検出されたハロゲン化PAHsが塩分とPAHsとの光化学反応によって生成したということを示唆している。ハロゲン化PAHsは、人工海水にPAHsを溶解させて紫外線を照射した場合でも生成が認められた。これは、PAHsのハロゲン化反応が干潟だけではなく海水表層においても生成されうるという可能性を示している。海水中PAHsへの紫外線照射実験において生成が認められた光化学反応生成物の一部(1-C1-PYR、1-Br-PYR、1-OH-PYR)を対象として、それぞれバイオアッセイによるダイオキシン様活性の評価を行ったが、いずれの光化学反応生成物も有意な活性は示さなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
(1)との自己評価をもつに至った理由は、ハロゲン化PAHsが沿岸域において二次的に生成していることを示すデータを見出すことができたからである。干潟の底質を分析したところ、ハロゲン化PAHsは河川上流にはほとんど存在せず、塩分の影響を強く受ける河口近くに蓄積していた。また、海水中PAHsに対する紫外線照射実験においても、ハロゲン化PAHsの生成を見出し、その生成量と親PAHsに関する関連性についても考察した。
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今後の研究の推進方策 |
海水中PAHsへの紫外線照射実験において、ハロゲンPAHsの生成が認められた。ハロゲン化PAHsは、PAHsよりも強い毒性をもつとして近年環境汚染物質として非常に注目されている化学物質群である。このような物質が塩分との反応によって自然の海水中において生成している可能性がある。そこで本研究では今後、このハロゲン化PAHsに注目して研究を進めることにする。これまでに、ハロゲン化PAHsが生成するという現象は確認しているが、どのような過程でそれらが生成するのかはまだ明らかにされていない。そこで、化学物質の光化学反応プロセスの解析手法を習得するために、2013年6月から2014年3月までスイス連邦工科大学チューリッヒ校に滞在し、研究を行う予定である。
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