本研究は、モザンビークにおいて独立運動時から現在にかけて行われている文化政策が各民族の伝統芸能にどのような影響をもたらし、新たな音楽文化を創出してきたのかを考察することを目的としている。 平成24年度は、社会主義時代にモザンビーク国立歌舞団によって創作・上演されるようになったバイラード(舞踊劇)が地方の芸能に与えた影響について、首都マプト市、ザンベジア州のキリマネ市で調査を行った。そして、バイラード創作に関する国立歌舞団と地方の歌舞団の関わり、それぞれの活動形態の違いや作品の特徴を明らかにしていった。以下がその調査内容と明らかになった点である。 1.国立歌舞団への調査 国立歌舞団でバイラードが創作されるようになった社会的背景、バイラードの演劇・音楽形態と社会主義放棄以降の変容の方向性を明らかにするために、文献・映像資料の収集や聞き取り調査を行った。また、どのようなプロセスで全州の舞踊や音楽を収集し、バイラード創作を行ってきたのかを元団員へのインタビューで明らかにした。 2.地方の歌舞団の調査 バイラード創作を行うようになった経緯と国立歌舞団との関係性、現在のバイラード創作の実態について調査を行った。ザンベジア州の歌舞団モンテス・ナムリは、州内の舞踊や音楽を借用しながらバイラード創作を行っていること、外来の要素を取り入れるようになったことなどをこの調査で明らかにした。収集した映像資料については現在分析中である。 この成果の一部を、東洋音楽学会で報告した。 意義:アフリカの多くの国々では近年の急激な社会変化を受けて人々と伝統芸能の関わり方も大きく変化してきている。「伝統芸能」をどう捉え、新しいジャンルを創出しているのかについて社会背景と関連付けながら着目するこの研究は、モザンビークの芸能の現在のダイナミズムを捉えるために重要である.
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