2002年に、光格子中にトラップされた冷却原子系において、超流動-モット絶縁体転移がGreiner達により実験的に実現された。それ以降、この系は格子モデルにおいて理論的に予言された現象を実現するための格好の舞台として注目を集め続けている。特に近年では、大きな双極子モーメントをもった冷却原子系をトラップする実験的試みが盛んである。そのような系では、長距離相互作用(双極子相互作用)に起因した多彩な物理が期待されるためである。本年度の目的は、このような系の有効モデルである、双極子相互作用のあるソフトコア・ボーズ・ハバードモデルの基底状態相図を量子モンテカルロ・シミュレーションによって解明することで、双極子相互作用に起因した新奇な量子相を見つけることである。 研究成果としては、実際に本モデルの基底状態相図を完成させることができた。この相図中には、粒子間の双極子相互作用及び粒子のソフトコアの自由度に起因して現れる、入れ子構造の固体秩序相やそれに伴う超固体相といった新しい相が含まれている。また、この入れ子構造の固体秩序が有限温度における二回のIsing転移を通して出現することを明らかにした。このような固体秩序の形成の仕方は、短距離相互作用系では見られなかった、長距離相互作用系に特有なものである。これらの結果は、近い将来冷却原子系でも実際に観測されるものと期待される。 以上の成果は、現在論文にまとめている段階であり、作成でき次第、投稿予定である。
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