研究課題/領域番号 |
12J09911
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
佐藤 暢哲 九州大学, 工学研究院, 特別研究員(DC2)
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キーワード | 筋芽細胞 / 人工筋組織 / 再生医工学 / 遺伝子導入 / 収縮力 / Bcl-2 / フォリスタチン |
研究概要 |
筋芽細胞を用いて作製した筋組織は、再生医療分野やアクチュエータへの応用が可能と考えられる。これまでに磁性微粒子と磁力を用いて、電気刺激により収縮力を生ずる高密度な三次元人工筋組織の構築に成功しているが、作製した組織が発生した力はマウス生体内の骨格筋が発生する力のわずか0.5%程度であった。大きな収縮力を発生する筋組織を誘導するために、筋肉にとって有用と考えられる遺伝子を導入することによって機能強化を図ることにした。筋芽細胞へIGF-I遺伝子の導入を試みたところ、IGF-Iを発現している筋組織はIGF-Iを発現していない筋組織と比べ約1.5倍の収縮力が得られ、筋芽細胞へのIGF-I遺伝子の導入は筋組織の機能強化に有効であることが分かった。本研究ではさらに、新たな機能強化遺伝子の探索を行い、アポトーシス阻害因子であるBcl-2遺伝子に着目し、筋芽細胞へBcl-2遺伝子を導入した。アポトーシスを誘導する低酸素条件下および血清飢餓条件下の双方において、Bcl-2発現筋芽細胞はBcl-2を発現していない筋芽細胞と比べ、有意にアポトーシスが抑制された。またBc1--2発現人工筋組織とBcl-2を発現していない人工筋組織の垂直断面を観察したところ、Bcl-2を発現していない人工筋組織は組織内部で壊死領域が見られたが、Bcl-2発現人工筋組織は組織内部まで生存した細胞が高密度に存在していた。電気刺激による収縮力測定を行ったところ、Bcl-2発現人工筋組織はBcl-2を発現していない人工筋組織と比べ約2倍の収縮力が得られた。また、別の機能強化遺伝子としてフォリスタチン遺伝子の導入を行った。平面培養において画像解析により筋管の肥大および筋管への分化率の評価を行ったところ、フォリスタチン発現筋芽細胞はフォリスタチンを発現していない筋芽細胞と比べ、筋管に分化させた際に、筋肥大と分化率の向上が観察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、BCl-2遺伝子導入実験を行った。Bcl-2遺伝子を導入することで、収縮力が2倍に増大するなど、人工筋組織の機能強化に成功した。したがって筋芽細胞への有用遺伝子導入は、人工筋組織の機能強化のための有用な手法であると考えられる。さらに、別の機能強化遺伝子としてフォリスタチンの筋芽細胞への遺伝子導入を行い、平面培養において筋肥大や分化率の向上を確認した。今後は筋組織を作製して力学的評価や生化学的評価を行うことを予定しており、順調に研究は進んでいると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
筋芽細胞への遺伝子導入を行い、作製した人工筋組織の機能強化を行ってきたが、依然として生体の筋肉が発生する力と比べて著しく低いレベルである。継続的な電気刺激により二次元の筋組織の収縮力が向上したとの報告があることから、電気刺激を与えながら培養を行うことによって、遺伝子導入筋組織のさらなる強化を図るための検討を行う。またこれまでに使用してきた有用遺伝子を共発現すること、さらには電気刺激と組み合わせることで最終的には生体組織が発生する力に匹敵するレベルに近づけることを目指す。
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