研究概要 |
本研究は, 太平洋やインド洋で採取された海底堆積物掘削コア試料の地球化学的分析を行い, 様々な元素濃度の時間的・空間的分布の変化を復元する. また, 地球表層の環境変動の特徴的なシグナルとなる元素(例えば, 炭素循環の変動を記録した海底炭酸塩の炭素安定同位体比等)について同位体分析を行う. これらの結果を統合・解析し, 地球内部のマントル活動や陸上岩石の風化活動, 海洋の生物生産性の変化といった, 過去6,500万年間の新生代におけるグローバルスケールでの物質循環の変遷と全球的な環境変動の因果律を解明することを目的とする. 25年度は, 24年度に高知コアセンターにて採取したインド洋深海底堆積物1,665試料の全岩化学分析を実施した. うち376試料については同センターにおいて炭素・酸素同位体比分析も行い, 前期始新世に生じた複数の短期的地球温暖化イベントをインド洋の複数サイトの堆積物から初めて復元した. この結果は, 今後モデリング等を用いてその発生原因を検討していく上で重要な制約条件となる. また, 25年度は化学分析と並行して, 多変量解析手法の一つである独立成分分析を行うためのプログラムを作成し, 所属研究室が所有する太平洋レアアース泥(Kato et al., 2011 Nature Geoscience)及び当研究員も乗船した平成25年1月のKR13-02航海(主席 : 飯島耕一, JAMSTECと共同研究)にて南鳥島周辺から採取された「超高濃度レアアース泥」を用いて, 深海底堆積物の起源成分および堆積物中のレアアース濃集要因を解析した. 堆積物の起源成分は過去のグローバル物質循環と環境変動の関連を反映し, 本研究において最も重要な鍵となる情報である. また, レアアース濃集要因の考察は今後, 海底鉱物資源としてのレアアース泥の分布推定に資することが期待される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では, 新生代全体をカバーする深海底堆積物の大規模データセットを新たに構築し, 多変量解析手法を適用することで過去の物質循環の変遷と地球環境変動の関係を議論する. 本年度は1,600試料を超える化学分析を実施し, 多変量解析に必要不可欠な均質かつ大量のデータセットを順調に構築しつつある. また, 解析に用いる基本的なプログラムもほぼ完成しており, 解析結果の一部は学会における成果発表が既に予定されている. これらのことから, 本研究計画はおおむね順調に進展しているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は, 前年度までに引き続き, 太平洋およびインド洋の深海底堆積物試料について分析作業を進めるとともに, 蓄積した大量のデータを基に堆積物の起源成分を多変量解析により同定していく. さらに, 各起源成分の影響範囲等を時系列に復元し, 文献等に基づく古環境学的な知見も踏まえた上で, 過去6,600万年間にわたる新生代の物質循環の変遷と地球環境変動がどのように相互に関連していたのかを考察する.
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