研究概要 |
本研究は、キラルな非配位性アニオンによる反応性カチオン種の制御を目的とし、イオン間相互作用を鍵とする立体制御法の新しい領域の開拓を目指している。すなわち、反応性カチオン種の発生を担うプロトンとキラルな反応場を提供するキラル非配位性アニオンを持つブレンステッド酸を創製し、その有機分子触媒機能を引き出すことで、従来にない高立体選択的分子変換を成し遂げる。 本研究で取り上げたキラルホスフェイトイオンは完全に新規な化合物であり、類似の構造を持つ化合物もほとんど知られていないことから、研究初年度は設計した化合物の合成に注力した。具体的には、ビナフトールを原料としてO,O,O-型三座配位子を合成し、リン原子の導入法について検討した。種々のリン源および反応条件を用いて、ホスフェイト塩の合成を試みたが、設計した配位子を使ってリン原子を高配位化することが困難であり、所望の骨格を組み上げるには至らなかった。そこで、高配位典型元素化合物についての研究例を参考に、6配位リン原子中心を安定に構築するための配位子構造を探索し、新たなN,N,O-型三座配位子を案出した。また、リン原子導入段階においては、テトラアミノホスホニウムカチオンの合成研究で培った知見を最大限に活かし、段階的にリン原子を高配位化することで目的のホスフェイトイオンの合成を達成した。得られたホスフェイト塩の三次元構造はX線を用いた構造解析により求め、本分子がハイドロジェンホスフェイトの塩化水素錯体として得られたことを明らかにした。また、骨格は異なるものの、本分子は当初設計と同様の2つの三座配位子から成る6配位ホスフェイトイオンを備え、アニオン部周りにキラルなカチオンポケットを備えていることを合わせて確認した。現在、合成したキラルホスフェイト塩のカチオン交換法の確立と、得られたキラル塩の触媒機能の探索に並行して取り組んでいる。
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