本研究は、「われわれ」と「かれら」を固定的にではなく、流動的に捉える理論を構築することを目的としている。この目的に合わせて、本研究では、東アジアにおける障害者差別禁止法を中心にした社会運動を対象として、障害者運動団体とそのほかの社会運動団体との連帯を可能にする条件を探っている。本年度は、参与観察とインタビュー調査をおこなった。 香港の参与観察では、連帯そのものが見られなかった。インタビューによれば、女性運動団体および性的少数者団体は、障害者運動団体を連帯の相手としてみなしていないことが明らかになった。その理由は、彼らは障害者運動団体を運動団体としてではなく、福祉制度の枠組み内にある団体としてみなしていたことに求められる。 一方の韓国では、さまざまな社会運動団体との連帯が積極的に行われていた。障害者運動団体外のメンバーに対するインタビューからは、他のマイノリティ団体が障害者運動団体を連帯の相手としてみなしていたことが明らかになっている。しかしもちろん、連帯は自然に出来上がるものではない。こうした連帯を可能にする条件として、問題を生存権とかかわらせること、活動に柔軟性を持たせること、文化活動を同時に行うことなどがあった。韓国の障害者運動団体は、こうした問題をあえて中心に据えることで、他の社会運動団体との連帯を作ることに成功したのである。今後、これらの知見を理論化していきたい。 さらに、他の運動との比較によって香港の障害者運動団体の特徴が新たに明らかになった。香港の多くの社会運動には香港人/西洋人の間の分断がある。一方で、障害者運動団体にはそうした分断はなく、香港人が中心となって活動を進めている。他の社会運動団体とのかかわりを考察することで、その社会における障害者運動団体の特徴を見出すことができたことは、研究を進めていく中での新たな知見であった。
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