研究課題
生体膜は、一般にペプチドやタンパク質、核酸といった分子量の大きく親水性が高い物質を透過させない。膜透過性を目指す医薬品開発においては、これが非常に大きな障害になっている。当研究室では、多様な人工アミノ酸をtRNAに結合させる「フレキシザイム」技術、そしてこれを基盤としたペプチドの翻訳合成・修飾・スクリーニングに関する総合技術「RAPIDシステム」を開発している。もし、このRAPIDシステムのスクリーニングプロセスに、膜透過性に対する選択圧を加えることができれば、ペプチド創薬の開発は大きく加速することになる。そこで私は、将来的なRAPIDシステムへの統合を踏まえつつ、新規のマイクロアレイ化した人工脂質二重膜の作製技術の開発を行った。基板上に大量に人工脂質二重膜を集積する技術はこれまでに確立されておらず、本手法の開発は多方面にも大きな影響を与えると予想される。脂質二重膜のマイクロアレイ化へのアプローチとして、ガラス基板上にフォトリソグラフィ技術を用いて、疎水-親水のパターニングを行い、その各パターン上に平面脂質二重膜を形成することを目指した。ガラスデバイス上にフローセルを組み、フローシステムを用いて平面脂質二重膜を作成した。各種条件を検討した結果、水溶液→油溶液→水溶液の順に適した流速で展開することにより、これまでにない高効率で人工脂質二重膜を作製できることが明らかになった。この人口脂質二重膜に、αヘモリシンを導入したところ、αヘモリシンのチャネルを通って蛍光色素が拡散して行く様子が観測され、今回作製した脂質二重膜が、天然の膜タンパク質が活性を持つのに十分な、精度の高い均質な膜であることが示された。本系は、天然リン脂質分子を用いることができ、また界面活性剤に対しても十分な安定性を持つことがわかった。
2: おおむね順調に進展している
研究計画を達成する上でまず重要となるのが、今回報告した人工脂質二重膜の安定的な形成である。今回、この要素技術を疎水一親水パターニングを行ったガラスデバイスを用いることにより達成できた。今後、このデバイス上に大量生成した平面視質二重膜を用いて、研究を展開していく予定である。
今後の研究としては、今回開発した人工脂質二重膜のマイクロアレイを活用し、2つの方向へ展開する予定である。ひとつは、安定性の高い脂質二重膜ガラスチャンバーの利点を活用した膜タンパク質の定量的活性評価。もうひとつは、大量のチャンバーを利用した、ペプチドの膜透過性の評価の方向である。これに関しては、最終的にはデバイス上でのペプチドライブラリのセレクションへと繋げて行きたいと考えている。
すべて 2012
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)
Nature Communications
巻: 3 ページ: 1093
10.1038/ncomms2093