研究課題/領域番号 |
12J10055
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
風間 慎吾 東京大学, 大学院・理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | LHC / ATLAS / 余剰次元 / 超対称性 |
研究概要 |
申請者は、LHC-ATLAS実験においてモノジェット事象というイベントトホロジーを軸に、1.大きな余剰次元や2.長寿命荷電超対称性粒子など、様々な標準理論を超えた物理の探索を行った。 1.大きな余剰次元の探索 新物理の確実な発見のためには、標準理論から予言される背景事象を精密に評価する事が重要であり、モノジェット事象探索においては、Zボソンの不可視崩壊事象の精密評価が鍵となる。これまでの解析では、この背景事象の評価は主にモンテカルロシミュレーションを用いて行われており、ジェットエネルギースケールの不定性やルミノシティーの不定性などから、約20%という高い系統誤差が課せられていた。2012年度の研究においては、Zボソンのレプトン対崩壊事象の実験データを用いて評価する事が可能となり、系統誤差として約10%という高い精度で評価することが可能となった。 2.長寿命荷電超対称性粒子の探索 超対称性理論は、標準理論を超える理論として最も有望であるが、LHC加速器の2012年度までの結果において、最も期待されていた超重力を介した超対称性の破れ模型は大きく否定された。そのため、アノマリーを介した超対称性の破れ模型等に対する期待が高まっており、申請者はこの模型から自然に予言される長寿命荷電超対称性粒子 (チャージーノ)の探索を行った。このチャージーノの寿命は約0.1ns程度であり、ATLAS検出器においては、あたかも途中で消失したかの様な特徴的な信号を残す。標準理論にはこの様な信号を予言する過程はなく、さらには、モンテカルロシミュレーションでこのような信号を精密に評価する事は難しいため、全ての背景事象は実験データをベースにして評価を行った。その結果、チャージーノの質量下限値に対して、これまでの実験結果(LEPの実験結果)を超えた新しい制限を課すことに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大型陽子・陽子衝突型加速器LHCは、2012年度において安定して稼働を続け、積分ルミノシティーとして約20fb^<-1>という高い統計量の実験データの取得に成功したことが大きな理由である。これに加えて、ATLAS検出器もほぼ100%の稼働率で運転が行われ、上記データをロスすることなく物理解析において使えるようになったのも、順調に研究が進んだことの理由の一つである。
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今後の研究の推進方策 |
アノマリーを介した超対称性の破れ模型(Anomaly mediated SUSY breaking model)が予言する長寿命荷電超対称性粒子の寿命は、約0.1ns程度と非常に短く、これまでのATLAS実験のトラッキング手法を用いた解析では感度が低かった。今後の解析では、より寿命の短い超対称性粒子の探索を目標に、まずトラッキングアルゴリズムの改良を行い、0.1nsの粒子に対しても感度がある解析手法を確立させる。
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