研究課題/領域番号 |
12J10071
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
堤 亮祐 名古屋大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | 有機化学 / 有機合成化学 / 不斉合成 / ホスホニウム塩 / 酸化反応 |
研究概要 |
酸化活性金属オキソ酸として、アリルアルコールのエポキシ化やスルフィド酸化等への適用が期待できるバナジン酸(VO_3^-)に着目し、キラルアミノホスホニウム-バナジン酸塩触媒の創製およびその不斉酸化反応への適用を試みた。まず、アミノホスホニウムクロリドとバナジン酸ナトリウムとのイオン交換を利用した調製法を確立し、アリルアルコールのエポキシ化反応およびスルフィドの酸化反応へと適用した。この結果、いずれの反応においても本触媒の酸化活性が認められ、特に前者においてはカチオン側の構造と反応速度との間の相関が確認されたことから、カチオンの構造修飾による触媒活性のファインチューニングを行える可能性が示唆された。しかレ現在のところ、高立体選択性の獲得には成功していない。 一方、本触媒を利用したN-スルホニルイミンの酸化反応への展開を試みる中で、この形式の反応を金属フリーな条件下、すなわち有機塩基触媒と過酸化水素を用いて実現できる可能性を見出した。具体的な反応条件を検討した結果、有機塩基触媒として光学活性トリアミノイミノホスホランを用いトリクロロアセトニトリルを添加することで、過酸化水素による酸化反応が効率的に進行することを明らかにした。さらに、触媒の構造最適化を行うことで幅広い基質一般性の獲得に成功し、種々のN-スルホニルオキサジリジンを高エナンチオ選択的に合成した。加えて機構解析を行い、本反応がトリアミノイミノホスホランの作用により活性化された過酸化水素がトリクロロアセトニトリルに付加して生じるホスホニウムペルオキシイミデートを酸化活性種として進行することを示唆する結果を得た。量論量の塩基存在下、過酸化水素とニトリルを用いる酸化反応はPayne酸化として古くから知られているが、この形式の反応を触媒的に行った例は知られておらず本研究成果が初の例となる。また、生成物がキラル酸化剤やオキシアミノ化試剤として不斉合成への利用が期待できるため、本反応は合成化学的にも価値のある反応といえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度までに、テトラアミノホスホニウムーバナジン酸塩が種々の触媒的酸化反応に適用可能であり、バナジン酸の反応性をカチオン側の構造により制御できる可能性を見出した。現在のところ、この触媒を用いた高立体選択的酸化反応の実現には至っていないが、本研究において得られた知見を活用し、発展させることで、過酸化水素と有機塩基触媒を用いる不斉酸化反応の開発に成功した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究により、過酸化水素とトリクロロアセトニトリルを用いるPayne型酸化は触媒化が可能であり,N-スルホニルイミンの不斉酸化反応に適用可能であることが明らかになった。今後は本反応系の適用可能性を探り、新たな触媒的不斉酸化反応の開発へとつなげていく予定である。
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