研究課題/領域番号 |
12J10084
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
石川 寿樹 埼玉大学, 理工学研究科, 特別研究員(PD)
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キーワード | スフィンゴリピドミクス / LC-MS/MS / 長鎖塩基不飽和化 / イネ / シロイヌナズナ / スフィンゴ糖脂質 / 酸化ストレス耐性 |
研究概要 |
植物には異なる親水構造をもつ複数のスフィンゴ脂質クラスが存在し、さらにセラミド骨格の多様性により分子種の数は数百種にも及ぶ。植物スフィンゴ脂質の役割とその制御機構を解明するためには、このような多様な分子種から構成される代謝系全体を理解することが必要である。初年度は、植物のスフィンゴ脂質分子種構造を同定し、それらを網羅的に解析するスフィンゴリピドミクスの手法を確立することを目指した。はじめにイネおよびシロイヌナズナからスフィンゴ脂質をクラス毎に簡便かつ高度に分画する方法を確立し、GC-MSによる分子種分析およびESI-MS/MSによる構造解析により、異なる糖鎖構造を有するスフィンゴ脂質クラスを同定した。さらにLC-MS/MSでの分析条件を最適化し、ハイスループットかつ高感度な植物スフィンゴ脂質分子種の一斉定量解析法(スフィンゴリピドミクス解析法)を確立した。本手法により、数百種におよぶ植物スフィンゴ脂質分子種を、ごく微量にしか存在しない分子種から主要分子種に至るまで幅広い検出ダイナミックレンジにおいて、短時間の内に定量プロファイリングすることが可能となった。 さらに本手法を用いて長鎖塩基不飽和化酵素発現改変イネのスフィンゴリピドミクス解析を行い、セラミド長鎖塩基の不飽和化がイネのスフィンゴリピドーム全体に影響を及ぼしており、特にイネスフィンゴ糖脂質生合成系の律速段階となっていることを明らかにした。また本発現改変イネは酸化ストレス耐性に対して顕著な変化を示すことも見出した。これらの成果は、イネの酸化ストレス耐性におけるスフィンゴ脂質の生理的意義を初めて示すとともに、特定の代謝酵素を利用した植物スフィンゴ脂質代謝系の制御と、それによる植物機能の改変が可能であることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の目的であったスフィンゴ脂質一斉解析法の確立と代謝酵素発現改変体における実用性の検証を遂行できた上、さらにLC-MS/MSを用いた新規脂質解析法(分子種分析や他の脂質分子種の同時解析)を確立することができた。さらに、これらの解析手法を用いた研究材料となるスフィンゴ脂質代謝関連形質転換植物や酵母系統の作出についてもおおよそ予定通りに進んでおり、全体として計画以上に進展したと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の成果として得られたスフィンゴ脂質解析法を様々な脂質代謝酵素の改変植物に応用し、個々の代謝酵素の機能をスフィンゴ脂質代謝系全体から理解することを目指す。また酵母発現系を用いた組換え酵素の解析を進展させ、これまでにほとんど明らかになっていない植物スフィンゴ脂質代謝酵素の生化学的機能同定を行う。 さらに酸化ストレス耐性への関与が明らかとなった長鎖塩基不飽和化酵素や、その他関連代謝酵素の発現改変植物の表現型をストレス耐性を中心に解析を進めていくことで、スフィンゴ脂質代謝系がもつ生理的意義の解明を目指す。
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