研究課題
本課題では近年問題となっている森林生態系への窒素過剰供給が樹木の窒素吸収に与える影響を広域で評価するため、樹木が吸収している無機態窒素の量的な変化を土壌と植物の窒素安定同位体比から明らかにすることを目的としている。土壌中には窒素安定同位体比の異なるアンモニア態・硝酸態窒素の2種類の無機態窒素があり、樹木中の窒素安定同位体比は吸収した窒素の同位体比に近い値を示す。本年度は、本研究に必要な土壌抽出液中の無機態窒素(アンモニア態窒素・硝酸態窒素)の安定同位体比について、共同研究先の農工大の木庭研究室にある質量分析計を用いて測定を行った。本年度は予備的に前処理済みであるモンゴルのゴビ草原の土壌抽出液について、東京大学の大手研と共同で測定を行った。ゴビ草原では本来のイネ科多年草群落の劣化が問題となっているが、窒素安定同位体比の結果から、ゴビ草原の窒素循環は、イネ科多年草群落下でのみ大きく、一年生草本下では、植被があっても窒素循環量が著しく小さいか、塩類集積によるアンモニア揮散が起こっていることが示された。また、乾燥環境下では降雨が少ないため、硝酸態窒素が地表面に溜まりやすい。窒素安定同位体比の結果から、植物の多くは硝酸態窒素と近い値を示し、硝酸態窒素を利用していると考えられた。この成果は、本研究課題の樹木の無機態窒素吸収量の違いを明らかにするためにも重要な知見であり、今後は、窒素負荷に伴う樹木の窒素吸収メカニズムの変化を解明するため、大気からの窒素降下量の違いが明らかになっている森林総合研究所の桂試験地(窒素降下量:年間7.5kgN/ha)、および筑波試験地(年間11.5kgN/ha)において、主要造林樹種であるスギ・ヒノキ林を対象に、低木広葉樹種について植物体及び土壌の窒素同位体比の比較から樹種別の窒素負荷の影響の程度を推定する予定である。
2: おおむね順調に進展している
本研究の遂行に必要な土壌中無機態窒素の質量分析には、試料調整や濃度測定、脱窒菌法による前処理が必要であり、測定までに時間がかかるが、今年度はそれら一連の前処理技術を習得し、本課題の試料分析準備は順調に進んでいる。調査地における予備調査も終了し、来年度の試料採取の準備も進んでいる。
今後は、窒素負荷に伴う樹木の窒素吸収メカニズムの変化を解明するため、日本国内において大気からの窒素降下量の違いが明らかになっている森林総合研究所の桂試験地(窒素降下量:年間7.5kgN/ha)、および筑波試験地(年間11.5kgN/ha)より、主要造林樹種であるスギ・ヒノキ林を対象とした調査を行う。これまで樹木は主にアンモニア態窒素を好んで吸収すると言われているが、これまでの結果では、多くの植物で硝酸態窒素の吸収していることが明らかになった。そこで、今後は無機態窒素の質量分析に用いる脱窒菌法を応用し、葉内の硝酸態窒素量を定量化する新しい試みを取り入れることで、樹種間の窒素吸収様式の違いを定量的に評価する。窒素降下物を体内に取り込みやすいアオキを中心とした広葉樹種について植物体及び土壌の窒素同位体比の比較を行うことで、窒素負荷による窒素吸収様式の変化の程度をより詳しく明らかにできると考えている。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (4件)
樹木医学研究
巻: 19 ページ: 29-36
Oecologia
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10.1007/s00442-014-3126-0
PHOTOSYNTHETICA
巻: 53 ページ: in press