研究概要 |
【研究目的・導入】本研究は, 時間知覚に関する脳の情報処理の最適化が, ヒトの中枢神経系においてどのような神経メカニズムによって実現されているのかを解明することを目的とし, 本年度も引き続き心理物理学的手法として, 視・聴覚刺激による時間順序判断(TOJ : Temporal Order Judgment)と, 同時判断(SJ : Simultaneity Judgment)の2種類の時間判断課題を用いて, fMRI(機能的磁気共鳴装置)と連携させて課題遂行中の脳活動を計測し, 時間判断課題に関連した脳活動領域の同定を行った. 今回, 前年度に行った研究で, SJで被験者の判断に偏りが生じたため(視覚刺激先行時に同時と判断), 本年度は, 視・聴覚刺激を提示する時間間隔(SOA : Stimulus Onset Asynchrony)のパラメータを再設定して研究を遂行した(SOA : -350, -280, -210, -140, -70, 0, +70, +140, +210, +280, +350ms. -は視覚が先, +は聴覚が先). 【結果・考察】心理物理実験において, パラメータを変更してもSJで判断に偏りが生じたことから, 偏りが無い条件設定になるよう提示刺激について今後精査を行う必要がある. fMRI実験において, TOJ・SJ共に活動が観察された脳部位は, 島皮質(Brodmann Area : BA13)や小脳であった. また, SJと比較して, TOJで有意な活動が観察された脳部位は, 主に上頭頂小葉(SPL, BA7), 下頭頂小葉(IPL, BA40), 運動前野(PMC, BA6)であった. 両課題に共通して活動のみられた島皮質は, ヒトの時間知覚に関わる事が報告されている. また, TOJ特異的に活動がみられたPMCやIPL, SPLは, 運動制御に関連した領域で, 視覚を用いたTOJで活動することが報告されているほか, 触覚-触覚を用いた先行研究でも, TOJにおいて活動することが報告されていることから, 先行研究で行われたユニモーダルと本研究で行ったマルチモーダルにおけるTOJの時間知覚は, 同じ神経メカニズムである可能性が示唆された.
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究として, 活動が観察された脳部位について, ユニモーダルやマルチモーダルにおける先行研究で報告されている脳部位や, その時間知覚の神経メカニズムとの関連性について, 今後検証していく. また, 脳機能測定方法としてEEG(脳波)を用いた実験も行い, 時間知覚における脳情報処理過程に関して, 時空間的に神経機序を同定する.
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