研究概要 |
平成25年度には、国内外の各地域において、報告者の対象とする時期と同時期の遺跡出土資料実見調査を行い、データの収集に努めた。特に重要な成果は、本研究の最大の目的であるサハリン、北東アジア(中国・吉林省)における資料実見調査を行った点である。サハリンにおいて、サハリン州立大学附属の博物館において、サハリンのアゴンキ5遺跡、オリンピヤ5遺跡から出土した細石刃石器群資料を見学した。細石刃核の形態のみならず, 掻器や彫器といった共伴するトゥールの形態も非常によく類似することが確認できた。後期細石刃石器群期には、北海道とサハリンにおいて均質な細石刃文化が広がっていたことが推測された。中国・吉林省では、北朝鮮との国境付近の遺跡で、長白山(白頭山)から産出する黒曜石を素材とし、北海道における細石刃石器群初頭の石器群と類似した資料が出土していると報告されていた。北海道への細石刃石器群の流入過程を考えるうえで、大陸においてすでに細石刃石器群の分化が起こっていたかどうかは、人類集団の適応戦略や移動・居住形態の観点から大変興味深いものである。これらの点を確認するために実見調査を行ったが、結果として、報告されていたような初期細石刃石器群は認められなかった。むしろ、後期細石刃石器群である広郷型や、忍路子型細石刃核、それらに特徴的に伴うトゥールが多く観察された。より重要な点は、北海道において初期細石刃石器群とほぼ同時期に存在する川西C型石刃石器群と類似する資料が確認されたことである。川西C型石刃石器群は、研究者によって本州以南から流入したとする説と、大陸から流入したとする説があるなど、その来歴が不明であった。両者とも大陸から同時期に北海道に流入したと考えた場合、同じ集団の所産であり、同一文化の異なる技術的側面を示すものか、または異なる技術をもった異なる集団が同時期に同じ地域に移住しある時期に共存していたのか、今後の議論の方向性に大きな影響を与える手がかりを得た。 昨年度に行った石材調査や、今年度の調査成果をまとめた論文を執筆中である。目的としていた重要資料の調査をすべて行うことができ、成果の多い年度となった。
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