研究課題/領域番号 |
12J10126
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
松下 雄一郎 東京大学, 大学院・工学系研究科, 特別研究員(PD)
|
キーワード | 多形 / 炭化ケイ素(SiC) / バンドギャップ / Hexagonality / チャネル構造 / 有効質量 |
研究概要 |
近年、炭化ケイ素(SiC)はsp3結合からなる共有結合性半導体であり、数百種類にも及ぶ多形構造が存在することが知られている。これら多形構造は単なる積層構造の違いでしかないにも関らず、その物性値は多形構造に大きく依存する:例えば、バンドギャップは多形構造に依存し40%にも及ぶ変化が観られる。これまで、SiCのバンドギャップの多形構造依存性は、"ヘキサゴナリティー;Hexagonality"という経験的なパラメタと相関があることが指摘されてきた。しかし、この見出された相関関係もあくまで経験的なものにすぎず、奇妙なバンドギャップのメカニズムは依然として未解明のままである。 本研究では、密度汎関数理論(DFT)に基づいた理論計算によりバンドギャップの多形構造依存性の微視的メカニズムの解明を行った。その結果、バンドギャップの大きな構造依存性は伝導帯下端の波動関数の特異性に由来するものであることを明らかにした。その特異性とは、波動関数が原子近傍ではなく、内包空間(チャネル;channel)の中を広く浮遊(float)した、原子軌道の特徴から外れたNearly-Free Electron(NFE)的な性格を持った波動関数であり、内包空間の持つ対称性やポテンシャル、内包空間の広がり(チャネルの長さ:channel length)を強く反映したものとなっていることを明らかにした。実際に、floating stateの広がった内包空間の長さ"channel length"が小さいほど、量子閉じこめ効果によりバンドギャップが大きくなる事がわかった。つまり、バンドギャップの多形構造依存性はこれまで提案されてきた経験的パラメタ"Hexagonality"との関わりではなく、むしろ"内包空間の広さ(Channel length)"でよく特徴づけられることが明らかとなった。 また、チャネル構造と有効質量の異方性とは密接に関係していることを明らかにした。 このことは、凝縮物質内のナノ空間を制御することによって電子状態の制御の可能性を開く結果である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
実験家とのディスカッションを頻繁に行うことが出来、情報交換を相互に行うことが出来たため。
|
今後の研究の推進方策 |
実験・デバイス開発において有効質量の異方性のメカニズムの解明が喫緊の課題になっている。事態の重要性から、有効質量の異方性の解明を当面の研究の最重要課題に据え、理論計算から示唆を与える。その為には、炭化ケイ素のみに固執せずに普遍性を求めることこそが、問題を解決する為の重要な手段と考え、様々な物質に体する網羅的な理論計算を行う。これを通じて、炭化ケイ素固有の性質とそうでないものとの切り分けを明確に行う。また、それら知見を総動員して、MOS界面における移動度劣化の問題に対し示唆を与える。
|