研究概要 |
医薬品をはじめとする機能性物質の化学構造の多様化により、精密合成に対する依存度は一段と高くなっており、その一角を担う官能基選択的還元法の開発は、合成ルートの簡略化や選択肢拡大のために重要である。特に均一系触媒と異なり、再使用や生成物中への金属残留が少ない不均一系金属触媒による反応開発は、プロセス化学の観点からも重要である。また、アルキンからアルケンへの部分水素化反応においては、Lindlar触媒が良く知られているが、一置換アルキンの部分水素化や分子内に他の還元性官能基が共存する基質では、アルカンの副生や共存する還元性官能基の過剰還元などが併発するため官能基選択性の低下が問題であった。一方、水素の安定同位体である、重水素(^2HあるいはD)で標識された化合物(重水素標識体)は薬物動態研究、反応機構解明あるいは重水素標識医薬品(ヘビードラッグ)など幅広い分野で利用されている。従って、官能基変換が容易な一置換アルキンやアルケンに、位置選択的に重水素を導入する手法の開発は、標識前駆体の供給に直結する重要な研究課題である。現在、窒化ホウ素を担体としたBN担持型Pd触媒(Pd/BN)の開発に成功しアルキンからアルケンの効率的部分水素化法を確立するとともに[Adv.Synth.Catal.354,1264-1268(2012)]、反応条件をコントロールすることでアジド、アルキンおよびアルケンの官能基選択的接触水素化法の確立に成功している。更に、反応機構の解明あるいはヘビードラッグや多重重水素標識高分子の材料合成に利用することが出来る重水素標識前駆体である重水素標識アルケンの位置選択的で効率の良い調製法を見出しており、今後の更なる発展が期待される[Chem.Eur.J.19.484-488(2013)]。
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