本年度の研究内容に関しては、以下の通りである。まず、リスクシェアリングにおける地理的ネットワークの影響に関する研究を実施した。従来の分析方法では、同一コミュニティ内部におけるリスクシェアの程度が一定という仮定がおかれている。しかし、地理的距離が離れた家計同士では、物的・金銭的やり取りを行うための取引コストが高くなるために、同一村落内部でもリスクシェアリングが行われる度合いに異質性が存在することが考えられる。本研究では、従来の分析方法を空間計量経済学モデルとして捉え直すことにより、リスクシェアリングにおける地理的ネットワークの効果を取り込んだ分析を実施した。JICA研究所が収集したスリランカ南部農村地域におけるパネルデータを用いた分析結果から、特に周辺家計の所得の変動がリスクシェアリングのメカニズムを通じて消費水準の決定に大きく影響していることが判明した。この研究成果については、The VII World Conference of the Spatial Econometrics Association及び日本経済学会2013年度秋季大会において発表した。 次に、リスクシェアリングにおける地理的・社会的ネットワークの効果の比較研究を実施した。これは、前述の研究と、同地域におけるフィールドワークで収集した血縁関係に関するデータを組み合わせることによって、社会的・地理的それぞれのネットワークにおける所得ショックの伝播の影響を比較したものである。分析の結果、地理的ネットワークを通じたショックの伝播の影響の方が、社会的ネットワークを通じた伝播よりも大きいことが示唆された。本研究の成果については、今後も学会等において発表していくとともに、論文の改訂を重ね、最終的には国際的学術雑誌に投稿する予定である。
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