本研究は、ガブリエル・タルドの理論を中心としながら、19世紀後半から20世紀初頭にかけての発明と資本主義社会に関する議論の系譜を思想史的に明らかにし、従来の対立を越えて、新たな社会分析の視角として確立させることを目的とするものであった。最終年度である本年度の研究実施状況は以下のとおりである。 フランスでの草稿調査を継続的に行なった結果、タルドの理論の思想的基盤であるネオ・モナドロジーの形成過程の一端を明らかにすることができた。権利と義務概念の検討のなかで「差異の哲学」の「萌芽」が記された後、メーヌ・ド・ビラン、ハーバート・スペンサーやイポリット・テーヌの批判的な摂取によって、タルドのネオ・モナドロジーは彫琢されていった。その他の草稿と関連付けることで、すでに刊行されている『メーヌ・ド・ビランと心理学における進化論』がタルドのネオモナドロジーの形成過程を示すものであるということを理解できた。ただしその模倣―発明論形成の解明は今後の課題として残された。 そして前年度に引き続き、タルド前後の発明およびイノベーションに関する議論について検討を行なった。フレデリック・バスティアの競争を通じた発明普及論に対するタルドによる批判を検討し、タルドが発明と模倣を独立したプロセスとして論じた最初の理論家であるという点の検証を一歩進めることができた。また、タルドからシカゴ学派の社会学者のオグバーンやギルフィランらを代表とする発明の社会学の系譜を描き出し、ルパート・マクローリンによるイノベーション・リニア・モデルの形成との関連と対比についてまとめた。現在においても発明と「イノベーション」概念は資本主義発展の基礎の一つとして規範的な含意をもってさまざまな場所で論じられており、その分析を継続してすすめていく必要がある。
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