ヒトと社会的に関わる種としての家畜化があらゆる鳥類の中で最もなされた種の一つであるセキセイインコを対象とした、知覚に関する3つの行動実験のうち、当該年度は、セキセイインコ(実験1B)とハト(実験1P)を対象に、関係の概念の一つである同・異概念の形成のされ方を比較した。具体的には、コンピュターディスプレイ上に16個呈示される刺激が、「全て同じ」か「全て異なる」かを弁別訓練した後、様々な条件のテストを実施した。セキセイインコを対象とした実験では、当初の予定以上に研究は進み、刺激数減少テスト、新奇刺激テスト、配合操作テスト、エントロピー値統制テスト、柄操作テストという5つの実験を完了した。結果は、上述のような配列刺激に対するセキセイインコの反応傾向はハトやヒヒと同傾向であり、ヒトの反応傾向とは異なることを示唆するものであった。さらに、この反応傾向は本実験で用いた刺激に特異的なものではないことを確認するため、同じ刺激を用いてハトで同様の実験を現在訓練中である。 また、前年度より継続中のセキセイインコにおけるアモーダル補間実験を、3個体で完了させた。しかし得られた結果は、実験前に立てたいずれの仮説にも当てはまらないものであった。すなわち、被験体の成績は、テスト刺激が訓練刺激と似ていないものであるほど正答率が下がるというものであり、訓練がテスト刺激に般化しなかったことを示唆する。訓練刺激を変更しての再訓練が望ましいと考えられる。 当該年度を含む全期間の研究結果を総合すると、セキセイインコの知覚・認知傾向は一貫して同じ鳥類であるハトと同傾向であった。このことは、脳構造が比較的類似する鳥類間で認知に差が見られないとする脳構造仮説を支持するものであり、現時点では、社会性が基礎的外界認知に与える影響は大きくはないと考えられる。
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