研究概要 |
本研究では高出力な水の窓光源を実現するため,疑似連続スペクトル(unresolved transition array : UTA)を有する原子番号の大きい元素をターゲットに用いたプラズマ光源の研究を行っている.今年度は研究目的の達成を目指し,以下の二点に重点を置き研究を実施した. 1.実験及び理論計算による水の窓領域にUTA発光をもつ元素の解明 Nd:YAGレーザーの基本波(1064nm)をSn, Gd, Tb, W, Au, Pb及びBiに集光照射しプラズマを生成した.プラズマからの発光を分光器により観測しUTAピーク波長を調べた。ピーク波長は原子番号が大きくなるに伴い短波長化し,Biが水の窓領域にUTAを持つことが明らかにされた.また,理論計算によりBiは電子温度約500eVで444ブ遷移による4.0nm及び4.2nm,約1keVで4p-4d遷移による3.2nmの発光を有することが明らかにされた. 2.高出力な水の窓光源を実現するために最適なBiプラズマ状態の解明 レーザー強度を変化させBiスペクトルを観測し,発光特性の解明を試みた.しかしながら本研究室の最大レーザー強度の約4×10^<14>W/cm^2においても理論計算で予測された3.2nmの強い発光は観測されなかった.同じレーザー強度によって観測されたCの発光スペクトルから算出した電子温度は790eVであり,このことからさらに大きなレーザー強度が必要であると考えられる,また,プレパルスをターゲットに照射し,予備加熱したプラズマに加熱用のメインパルスを照射する二重パルス照射実験を行った.発光が強くなる遅延時間は波長によって異なり,3.2nmの発光と4.0nm及び4.2nmの発光が最大となる時間は約10ns程度と異なることがわかった.二重パルス照射法とは間接的にプラズマの光学的厚みを変えた実験であるため,この結果は自己吸収の効果が影響していると考えられる.光学的厚みはτ?v=σ_vNLで表されるため,間接的にσ_vを評価するため吸収分光スペクトルの観測を行う必要がある.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
計画では今年度内に光源を実現する予定であったが,OPAによる波長変換において変換効率が向上せず原因を解明している段階である.加えてBiプラズマの自己吸収効果が強いことが明らかになり,光学的厚みを評価する実験を行うべきであると判断したため,申請時の計画した実験に加え吸収分光実験を行っているためやや遅れている.
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今後の研究の推進方策 |
Biプラズマの4p-4d遷移による3.3nmの発光を観測し,高出力な光源を実現するためにはBiプラズマの光学的厚みを明らかにする必要がある.光学的厚みはτ_v=σ_vNLで表されるため,間接的にσ,を評価するため吸収分光スペクトルの観測を行う考えである. また,電子温度が1keVに達成していないことから更に電子温度を高くする必要がある.プラズマの電子温度はT_eα(Iλ^2)^<3/5>であり,レーザー強度I及び波長λに依存する.高い電子温度を達成するため,比較的波長の長い炭酸ガスレーザー(10.6μm)の開発を進め照射実験を行う考えである.
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