研究概要 |
福島第一原子力発電所事故を受けて,導入ポテンシャルの高い洋上風力エネルギーの普及に期待が集まる一方,洋上風力発電設備の建設コスト,メンテナンスコストが高く,事業採算性が懸念されている.そこで,本研究は洋上風力発電の経済最適化を目的とする. まず,洋上風力発電所のコストに関する研究が日本でほとんど行われていないため,海外研究を調査した.1990年代から英国,EU連合,アメリカ,オランダにおいて国家的に洋上風力発電設備のコストモデルが開発され,政策決定に役立てられてきた.各コストモデルは,構造学的知見から構築され,風車の定格出力といった技術要素や水深,離岸距離,海底地質といった環境要素がコストに与える影響を分析している. 調査から得た知見に基づき,構造特性を考慮した洋上風力発電設備の建設コストモデルを構築した.特に,構造に水深依存性を持つ支持構造物について,風力発電機はロータ回転との共振を避けるために固有振動数が一定になる,という構造力学上の制約条件を用いてモデル化を行なった.提案建設コストモデルを欧州の実績値を用いて検証するとともに,欧州のコストモデルと比較すると,提案モデルは欧州モデルより精度が向上した. 最後に,千葉県銚子沖における洋上風力発電プロジェクトの内部収益率と発電コストを評価し,洋上風力エネルギーの買取価格と補助金が事業採算性に与える影響を明らかにした.買取価格が25円,30円,35円の場合と,買取価格23.1円とした上で補助金を建設コストの10%,20%,30%与える場合を比較し,採算性を確保できるシナリオを検討した. これらの成果は,4月にコペンハーゲンで行われたEuropean Wind Energy Association Annual Event 2012,11月に東京で行われた第34回風力エネルギー利用シンポジウムにて発表した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画書の予定に基づき,洋上風力発電設備の支持構造物コストをモデル化するとともに,洋上風力発電所の経済最適化の基盤となる建設コストモデルを構築することができた.第2年度以降は,提案モデルを改善し精度を高め,発電コスト最小となる最適化シミュレーションを行うことで目的を達成できる.
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今後の研究の推進方策 |
第1年度の研究により,構造特性がコスト評価に大きく影響を与えることが分かった.そこで,第2年度は,日本での普及が期待されている浮体式構造物の動的特性の予測精度を高度化する.浮体式構造物の動的特性の予測には東京大学橋梁研究室で開発されてきた有限要素法による風車-浮体-係留連成非線形時刻歴応答解析ツールのCAsTを用いる.予測精度の検証のため,風車および浮体式の水槽実験を実施する.また,年度の後半では,当初の計画にあった設置コストおよびメンテナンスコストに関してモンテカルロシミュレーションを用いたコストモデルを構築し,その不確実性を同定する.
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