前年度までに、生育環境に応じて表現型の可塑性を示すRorippa aquatica(Neobeckia aquatica から改名)と呼ばれるアブラナ科の植物の葉について、シンプルな数理モデルを用いて葉の形態の多様性を作り分ける仕組みを説明し、シミュレーションを用いて実験結果などを再現していた。 本年度は、複葉や分裂葉で見られる分岐構造の非対称性に着目した。同じ数理モデルを用いて、成長軸の速度を変化させることでこれらの非対称性が再現できることを明らかにした。また、分岐構造の非対称性を示す様々な植物の葉において、分岐パターンの分布を調べた。そこから実際に見られる非対称性の程度と理論的に見積もった値の比較をおこなった。さらに非対称の方向性と分岐パターンから推測される各成長軸における成長スピードの違いとの関わりを調べ、理論との一致を確かめた。 その他、ミクロソリウムと呼ばれる水性シダの変種でみられる葉の多様性についても同じモデルで説明した。この植物では、異なるタイプの分岐構造の形成機構が葉の形態の多様性を生み出している。この分岐のタイプの違いに成長点の性質と成長スピードが関わっている可能性があることを数理解析から明らかにした。この理論の正当性について、現在実験的に確かめている途中である。 以上の結果は、様々な植物種において葉の形態の多様性が生じる仕組みについて、新たな視点からアプローチする足がかりとなる成果であると考えている。
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