研究概要 |
これまでに、酸素分子に対して高い親和性を示す金属酵素(シトクロムP450、ヘムオキシゲナーゼなど)の活性中心を模倣したアミド基を持つポルフィリンのコバルト錯体を合成したところ、このポルフィリン錯体は金属酵素と同様に第五配位座への軸配位子(イミダゾールなどの窒素塩基)の配位を契機として空気中の酸素分子を活性化させ、安定に存在する有機分子であるポルフィリン配位子の炭素一炭素結合を切断することを明らかにした(Angew. Chem. Int. Ed., 2011, 50, 6583)。この酸化反応を制御するために、様々な窒素塩基やポルフィリン骨格に置換する官能基を検討しところ、配位力の弱い窒素塩基を反応に用いた場合や電子求引性の官能基を置換したポルフィリン錯体を反応に用いた場合には、酸素分子の還元を行う金属中心の電子密度が低くなることから活性酸素種の反応性が低下し、強い配位力を持つ窒素塩基や電子供与性の官能基を置換したポルフィリン錯体を反応に用いた場合には、活性酸素種の反応性が高くなり炭素-炭素結合が切断された螺旋型錯体の生成比率が増加した。一方、酸化される反応点を嵩高い置換基を用いて保護した場合には、酸素分子の活性化反応はこれまでと同様に進行するがポルフィリン配位子を酸化しないことが明らかとなった。このことを生かし、これまで分子内で優先的に酸化していた活性酸素種の反応性を分子間での酸化反応へと応用できないか検討したところ、反応系中に添加したホスフィンがホスフィンオキシドへと酸化し、活性酸素種の分子間酸化反応に成功した。また、これらの検討を行っていたところ1,2-ジメチルイミダゾールを反応に用いた場合には、反応中間体であるポルフィリン錯体の構造の歪みに起因して活性酸素種の反応性が変化し、ヘムオキシゲナーゼで行われているポルフィリンの代謝反応に類似したポルフィリン配位子のヒドロキシル化が進行することを明らかにした(Chem. Commun.,2013, 49, 9296)。
|